Song of the murder. 20




ジャスティスタワーのゴールドステージへ続くエントランスを走り抜けた虎徹はその入口で立ち止まった。
闇に染まる街はきらびやかなネオンが彩っている。

もし、ここから、出られていたら。
もう探しようもないかもしれない。
不審な男達の情報は今だ掴めていないというのに。
珍しく、考えられる一番最低なシナリオが頭を巡り虎徹はぎりっと眉を寄せた。
薄く汗が浮かぶ。
A’が歌っていた僅か十数分程度の間にヒーローが揃うパーティーから誘拐だなんて、いくらなんでも笑えない。
しかも主役は虎徹たちだ。
目を閉じるとエアが繋がれて倒れている姿が容易に思い浮かんだ。
はじめて会った時にそうだったように。
無理にでも、嫌がっても、何が起きたのか問い詰めればよかったのか。

「……拉致、…って、なんでだよ…!」




「タイガー」
「っ…と、ブルーローズか」

背後から呼ぶ声に飛んでいた意識を引き戻す。
小走りに駆け寄るカリーナを見て一瞬エントランスに目がいった。
そこまで遅い時間じゃない今は22時を少し回ったくらいで、エントランスにはまだそれなりに多い人がいた。
虎徹ひとりならばそこまで目立たなかったのだが、いや本人が気づいていないだけでパーティーの出席者もまだ大勢いるエントランスはアイマスクをしたワイルドタイガーが焦った様子で走り回っているのをみんなが遠巻きで眺めていた。
そんな中でブルーローズまでが現れ流石に虎徹も注目を集めていることに気がついた。
明日にはパーティーで何かがあったとシュテルンビルト中で噂になるかもしれない。

「エレベーターの監視カメラに映ってたって。彼女ここで降りてるわ。」
「っそれ、外には出てんのか?!」

一瞬前に考えていたことなどすぐに忘れ、ガッとブルーローズの肩を掴みかかるワイルドタイガー。
小さく、キャッと声を上げたブルーローズはパチパチと目を瞬いた。
勿論二人の会話は聞こえずとも観衆の的だ。

「え、ええ。彼女が会場から出ていった時はまだパーティーの最中だったし、そっちにも入り口にも誰も映ってなかったってバーナビーが…」
「そうか!じゃこの辺探し…っ…は?」
「えっ?何よ」
「出てった?誰も映ってない?それバニーが言ったのか?」
「あんたたちのメカニックが管理室に確認しに行ったのよ。そのあとすぐにあいつも行ったから私も追いかけて」
「いや、そうじゃなくてだな。…えーと、あー、エアひとりで出てったのか?」
「ええ」
「……は?」
「だ か ら、そうだけど?」

そう聞かれ、冷静を通り越して呆れ気味のブルーローズがこっくりと頷く。

「なんかフラついていたから早く捕まえてきてくださいって言われたわよ。で、あいつはとっとと残ってた来賓へ挨拶に戻ったけど、なに?なんなのよ、もう」
「……はぁっ?!」



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