Song of the murder. 1




しんと静まり返る室内。
そこにいる黒髪の彼女は目を閉じ、微動だにしない。
天井に埋め込まれたスピーカーから、女性の声がした。
そうすると、冷たい床に横になっていた彼女がふわりと目を開けた。

『起きている?』
「眠れないもの」
『どうして逃げないの?』
「どうして逃げないといけないの?」
『殺されるわ』
「…死にたい」
『死なれたら、困るわ』
「どうして?」
『どうしても』
「もう眠りたいの」
『じゃあ』








ジ ャ ア 、 コ ロ セ バ イ イ 。










「ねぇどの曲が一番好き?」
「私は二つ前のかなぁ。特にサビのとこの―――……」

黄昏時。
それは一斉に街にネオンが溢れ出す頃。
人々は今夜の食事の話をしたり、また洋服や音楽といった様々な流行りをチェックし合ったりしている。
楽しげに笑いながら人々はそれぞれの方向へと消えていく。
しかし行き交う人々が途切れることはなく、そして彼女達もまたその一端を担っている。
二人は楽しげに前を歩き、そのほんの少し後ろをカリーナが歩く。
昨夜も遅くに出動し、あまり眠れていない所為で欠伸を噛み殺しながら。

街頭ヴィジョンには人気の化粧品メーカーのCMが流れる。

「……この歌」

ふと流れた声に小さく呟く。
カリーナは立ち止まり、ヴィジョンを見上げた。
淡いピンクの新色ルージュのCMだ。
それは初めて見るもので、流れた歌声に嬉々として視線を上げたはずが画面一杯に映ったバーナビーにカリーナは眉をひそめた。

「ねぇ見て!バーナビー化粧品のCMやってる!……て、あれ?この声」

前で盛り上がっていた二人の片方が同じようにヴィジョンに気づく。

「っ嘘!聞いたことないこれ!ねカリーナこれ知ってる?!」

友人達がカリーナを振り返る。
カリーナは既に画面に釘付けで、返事もしないまま耳を澄まし続けていた。




翌日。

「んーんーんーんー、んーんんー」
「……虎徹さん。それ、止めてもらえません?」
「んんー、んぁ?」
「今のところばかり繰り返さないでください。しかもさっきから微妙に外れてますその鼻唄」

一応、晴れてヒーローに復帰した二人は今日もデスクに向かう。
飛んできた台詞に虎徹が目を輝かせた。

「なになにー、バニーもうこの歌知ってんの?」
「知ってるも何も今それ僕がやってるCMのやつです。昨日から流れてますよね」

カタカタカタカタ。
虎徹を見ずにバーナビーはそう返す。

「そういやそっか。言ってたわ楓。あ、でさぁ、この歌手楓が好きらしくてよー。あんまり嬉しそうに話すから探して色々聞いてみてよ。そしたら俺もめっずらしくハマっちゃってハマっちゃって」
「……、」
「んん?どしたのバニーちゃん」

何かを言い掛けたようなバーナビーが眼鏡に触れながら虎徹の方に顔を向けた。

「いえその、……僕もファンですから。彼女の」
「あ?うそうっわぁバニーちゃんもそうなの?!なぁなぁ会ったことあるか?!この歌手ってさぁ」

珍しく趣味が一致し嬉しそうに口を開いた虎徹がそこまで言って、二人のPDAが鳴った。



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