Song of the murder. 17




「ではタイガー&バーナビー、二人の一部リーグ復帰を祝して」

乾杯、と音頭を取ったのは市長だ。
その声に合わせてそれぞれがシャンパングラスを高く掲げた。
避難訓練は無事に一切不備が出ることなく成功し、現在はジャスティスタワー内でパーティーが開かれていた。
勿論ありとあらゆるヒーロー関係のスポンサーやら会社の身内ばかりのものだが、紹介され二人が壇上へで挨拶すると盛大な拍手が起こった。
その後二人の更に改良されたスーツの為に斎藤も壇上に上がり、それが終わるとヒーロー達が揃い踏みだ。





「二人とも。先程は素晴らしかったよ」

市長に肩を叩かれ虎徹は、いやあそうっすか、と照れながらも言うと隣にいたバーナビーが小さく咎めた。

「あ、いえ!ありがとうございます!」

慌てて虎徹が言い直し愛想笑いを浮かべると市長も笑った。
誉められるのは嬉しいが、堅苦しいのはやはり苦手。
そんな虎徹の性格もバーナビーと初めて組んで以来、揃ってTV出演と雑誌インタビューも増えていた為ある程度認知されていた。
一部リーグ復帰は堪らなく喜んだが、翌日以降またそういった関連の仕事もわんさか待っていると思うと虎徹は少しだけ気が重かったりする。
取り敢えず今以上に忙しくなるということだけは確実だ。

虎徹は話もそこそこに会場内を見渡す。
壇上の下手にロイズとその後ろにベンが立っていて、後方の窓際の壁にはいつも通り白衣姿の斎藤がいた。
しかし、肝心の探した相手の姿は見えなくて一瞬酷く焦る。
がすぐに中央付近でネイサンの側、虎徹からして影になる形にエアはいて、ほっと息を吐いた。
バーナビーへ言ったようにどこか彼女の様子がおかしい気がしていたが、おとなしくしてくれているようだ。
初めから彼女はおとなしいしバーナビーもどこも変なことはないと言う。
一緒にいるのはまだたった4日だった。
まだそれなのに、日が経つにつれ虎徹は何故かそれに不穏な空気を感じてしまって仕方がなかった。
近付こうとしたが、スポンサーに話し掛けられて距離は埋められなかった。
ちらちらとしか見えないエアに視線を送っても彼女が気づくなんてことはない。
くそっ。
何だか酷くもどかしい気分になってエアを見ているが不意に会場がわっと歓声に包まれた。
虎徹はびくりと肩を震わせ壇上に目を向ける。
すると丁度一人の女性が現れるところだった。

「は?なんだ?誰」
「聞いてなかったんですか?『A′』ですよ」
「ダッシュ…?」

拍手に紛れバーナビーに問い返すが、彼は既に壇上に釘付けで虎徹の声は聞こえていなかった。
虎徹もおざなりに拍手をしながら壇上の女性へ目を向ける。
闇を思わせるシックなブラックのドレスは『A』のイメージにぴったりだ。

「ぅ、わ……!」

そして、その歌声も。
しんと静まり返り彼女の歌に聞き入る会場、すべてに呑まれ拍手の形のまま胸元に上げた手を下げることも忘れ虎徹は息を飲んだ。
ゴクリ、と音が響いた気がしてそろりと周りを見るが誰も気づいていなくて安心する。
このパーティーの状況も後日HEROTVで放送される為その余興に組まれているらしかった。
『A′』、つまりAの歌真似をする歌手だ。
そういえば、と虎徹はAを探した時にやたらそういった歌真似も検索に引っ掛かったのを思い出していた。







「ほんと、……そっくりよねぇ」

ほぅっ、と溜め息のように頬に手を当て呟いたネイサンをエアは静かに見上げていた。
その顔は虚ろげで、僅かに眉が寄せられている。
しかし少しするとすぐに逸らし彼女は苦しげに目を伏せた。

いつの間にか。
誰に気付かれることもなく『A′』の歌声が響き渡るパーティー会場から。
ひとつ、姿が消えていた。



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