Song of the murder. 16




「今日は一度も出動ねぇな」
「市長命令で警備のパトロールを強化してるんですよ。さっきパトカーと沢山すれ違ったでしょう」

フォートレスタワーで『避難訓練』。
それが今回の二人に用意されたショーだった。
市長が街の安全PR活動を含めフォートレスタワーを解放してくれた。
今日の市内のパトロール強化はその市長が避難訓練を完璧に成功させたいという思惑からだ。
タイガー&バーナビーの一部復帰発表として、インパクトは十分だろう。
何せ二人がフォートレスタワーの事件を解決したこともあって、HEROTV的にも過去のダイジェストに事欠かない。
どちらにも利がある話だった。

「本当はもうほぼ暗黙の了解なんでしょうね。既に明日以降のインタビューの予定凄い入ってますし。それだけ、シュテルンビルト中に期待されてるんですね。僕達」
「スゲーよなぁ」

まあ今日はアニエスもやる気を出してはいたが、彼女自身としては事件のひとつくらい起きてくれた方がおもしろいとでも思っているかもしれない。

「……そういや、なぁ。バニー」
「何ですか」
「エア、なんかおかしくないか」
「彼女がおかしくなかったことなんてないと思いますが」
「いや、そうじゃなくて。あいやそうかもしれないけど!さっきは俺もビックリだけど何かそれとは違うんだよ。あーだからよ、ほら……変じゃねぇか?」
「……は?だからいつだって変ですよ」
「だからそうだけどそうじゃなくて!変だろ、なんか。変」

トランスポーター内、虎徹は装甲の具合を確認しながら背後で同じ作業をしているバーナビーに話し掛けている。
エアは壁の向こう側、斎藤の隣でソファに座りおとなしくしているだろう。
バーナビーは思い切り眉を寄せた。
虎徹の言い回しで彼女との会話を思い出したからだ。
否、思い出すまでもなく物凄く最近した会話だ。
勿論、虎徹は知るよしもないが。

「もう…変って一体どういうことですか。貴方まで彼女みたいなこと言わないでください」
「は?エアみたいな?なにそれバニーちゃんおじさん分かんないんだけど」








『さぁ。今夜も始まりました、HEROTV。現在当ヘリはフォートレスタワー上空を旋回中。犯人の目的は一切不明。依然最上階のレストランに立て込もっている模様です』








フォートレスタワーに爆弾が仕掛けられた。
HEROTVのオープニングは上空のヘリからライトアップされたフォートレスタワーを捉えていた。
いつも以上に煽るような実況中継。
最上階には爆弾のスイッチを持った自爆テロリストが潜んでいる。
声明はこうだ。
7時45分、フォートレスタワーに仕掛けた20個の爆弾を爆破する。
何ともTVを考えた微妙な時間である。
始めはスカイハイやブルーローズ達六人が避難させ頃合いを見計らってタイガー&バーナビーの二人が登場する運びになっている。

リアリティを出す為、フォートレスタワーに本当に勤めている人間以外の特別な人員は割かれていない。
この日の為、係員に達は何度となく避難経路の確認や練習を行っていた。
勿論フォートレスタワーに来ている客はすべて、今日そうして避難訓練があることは知らされていない。
タイガー&バーナビーの二人が一部復帰という噂が巷に広がってはいても、それが今日のイベントを切っ掛けにだとは誰も知らないのだ。
タワー内は爆弾魔に占拠された、と放送が流れるとその放送を担当した者の緊張感が伝わったのか客たちに混乱が広がりかける。
係の者は市長直々に今日のこの避難訓練がどれほどシュテルンビルトの今後に関わるのか、そしてその合図とも言える役だと重々言い含められていた。
多少声も震えるのは仕方がないだろう。
これもすべて、アニエスの思惑だった。

練習が上手く生きた係員に混じりヒーロー達が速やかに避難を終わらせ、それが済むと係員達も避難させる。
残りはテロリストただ一人、というところで、掛かった時間は35分と少し。
45分まで、残りは10分を切っていた。



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