Song of the murder. 14




「ねぇちょっと、そういえばあの子の服はどうするのよ?」
「へ?あー、……どうする?」
「ええ。用意ありませんね」
「もぅっ!3時回ってるのよ?!」

彼女が今着ているのはオフホワイトのワンピース。
はじめ着ていた入院着のそれとは違い、ドルマンスリーブのルーズなものだ。
アポロンメディア系列のショップのサンプルとして倉庫にあったものを一応ロイズがくれたのだった。
しかしパーティーに着るというようなものでは勿論ない。

急ぎネイサンが運転する車で近くのブティックへ横付けする。
スーツの方が目立たなくていいのでは、と言ったバーナビーの言葉は全力でネイサンに否定された。
どれにしようかしら、と行き付けらしい原色がやたら多い店内を慣れたように歩き楽しそうに選ぶネイサン。
エアは借りてきた猫よろしく真ん中にあった一人掛けのソファに珍しく座ったままだった。

「おいバニー」
「何です」
「他は?何か分かったことあるのか?」

ちらりと虎徹がエアを見ると高めの肘掛けに顎を乗せ目を閉じている。
その頭に手を伸ばし話しかけた。

「そういや…なぁエア、お前パスポートとかはどしたんだ?」
「ない」
「だよなぁ」
「ああ。彼女には市警から当日、事情説明に人が派遣されたらしいですよ」
「…聞いてねぇ」
「ええ。僕だって昨日知ったんです」
「ていうかお前はいつだよ?!ねぇ俺帰ったあとの話なのそれ?!」
「いえ?休憩は別でしたし」

NEXTだから、と警察の方へは行かずそのままアポロンメディアで保護を要請されたらしい。
ああそうそう、と世間話をするような調子で話すロイズにバーナビーも溜め息を吐いたものだ。
俺たちゃ下請けかよ、と虎徹の言葉に最もだ、とバーナビーは思う。

「まぁパスポートは一応あちらで手配してくれるそうですよ。ああ、あと逃げた男達もまだ捕まってないようで。偽装ナンバーだったんですが」
「そんなの、街中の防犯カメラでどっかしら引っ掛かってないのか?」
「途中で付け替えられたんでしょうね」
「ちょっと!目先優先でしょ!あとになさいそんな話」

虎徹が野垂れていると、ネイサンが会話を切り上げるように割り込む。
実際いつの間にか4時近くになっていて、そして生放送は7時、パーティーは9時からだ。
主役の彼らもうそろそろ戻らないといけなかったりする。

「やっば」
「ほら、とりあえずこれなんてどうかしら?ちょっと着替えていらっしゃい」

ネイサンは選んだものを見せるがエアは動こうとせず、虎徹が腕を引くとゆっくりとやっと立ち上がった。
店員に先導され試着にエアが消えるとネイサンがあとは足元ね、とまた店内を見渡した。
しかし今度は行こうとはせず、二人のそばに立ったままだ。

「……」
「…虎徹さん?」
「ねぇ、その死んだ男が何者かはまだ分かってないの?」
「それが貸しオフィスだったんですが何もかも偽名で」
「手も足も出ないじゃない」

エアが試着を終え出てくる。
なんでこの店にあったのかと思うような、パールホワイトのふんわりとしたバルーンタイプのワンピースだ。
シルクのリボンを緩く首に巻き、真ん丸の大きな瞳が三人を見上げていた。

「あら上出来。ヒールは…こっちのストラップの方が可愛いかしら」
「ああ、右のよりは僕もそっちがいいと思います」

迷わずネイサンが手に取ったヒールはエアにサイズピッタリだった。
このまま着て行くわ、と店員に告げるとネイサンはさっさと会計を済ませに行く。
すると奥からメイクボックスを抱えたどぎついメイクの店員が出てきて先程までエアが座っていたソファでメイクが始まった。
虎徹とバーナビーは一瞬ぎょっとしたが幸い、なのか軽く粉をはたいた程度、シャドーも淡いパールを乗せただけでメイクは済んだ。
ワンピースのタグを然り気無く外して戻っていく。

いつの間にか、試着室の元々エアが着ていた服とブーツは店のロゴの入った袋に入れられ。
ありがとうございました。
とそして並んで頭を下げた店員達に押し出されのだった。







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