Song of the murder. 13




「あらそれで?この子が電話で言ってた子なの?」
「ああ」

ああもう何日ぶりかしら、と虎徹の尻を握ったネイサンはバーナビーへにっこりと笑った。
ぎゃあ、と短い悲鳴を上げた虎徹に対しバーナビーはご無沙汰してます、と苦笑を滲ませる。
午後3時を過ぎた今、四人がいるのはヘリオスエナジーの応接室。
エアは虎徹に手を引かれたまま三人の側で立つがしかし視線は窓の外へ。
その目は少し細められている。

二人の考え、いや虎徹が言い出したのは、これから一部に上がるならあいつらにも顔を分からせればいいだろ、だった。
今夜のパーティーでは虎徹と、まぁほぼバーナビーは手が離せないだろう。
二人が壇上に上がると予定では後を追うようにメカニックの斎藤も共に上がることになっている。
つまりその瞬間、彼女に目がいくものがいない。
ここにいろ、と言えば彼女は歩き回る質ではないしそれはそれで平気だろうが。

「それで、アタシ?でもアタシもそのあと挨拶とヒーロー揃って撮影でしょ?」
「わーってるよ。あーだから…斎藤さんが戻るまでのほんのちょっとの間でいいんだよ。お前んとこのセキュリティでもマネージャーのそばでも置いとけねーかと思って。おら、ほかそういうの融通効きそうなとこねぇだろ?な」
「まぁ、そうね」

ふぅーん、と息を漏らしつつネイサンが腰を折りエアに顔を寄せる。
エアは一度目を合わせるが、眉を寄せ虎徹の手を外すと窓際へ行ってしまった。
あっさり振られたネイサンは片方の眉をピクリとさせ虎徹を見ると声を落とす。

「…ホントにあの子成人済み?」
「え、あ、ああそうだけど」
「自称ですが」
「アンタたちそれ信じたの?」
「信じる確証もなければ信じない理由もありませんね」
「ちょっ、バニー!…でも、だってわざと上に言うことなんてないだろ?」
「バカね。家出娘はいつだって嘘つくわよ。家族探してんじゃない?」

二人に白い目で見られガシガシと頭を掻いた虎徹が、違う、と首を振る。



「バニーだっていただろ?!そんなのいないってアイツが言った時、アイツそんな雰囲気じゃ、なかった…!」



珍しく険しい顔をした虎徹にネイサンは押し黙った。
バーナビーは小さく溜め息を吐き虎徹のそれをフォロー、する。

「まぁ冗談はさておき。年齢は本当のようですよ。いつシュテルンビルトに来たかは分かりませんでしたけど、とりあえず出入国記録は3ヶ月少し前でした。彼女個人で」
「は?」
「あなたが付きっきりでいる時に」
「なんだそれ聞いてねぇぞ!」
「僕だって昨日知ったんです」
「じゃあ昨日のうちに言えって」

虎徹がバーナビーに食って掛かるのを尻目にネイサンはちらりとエアに視線をやる。
エアは外を見つめたままだ。

「天涯孤独、ねぇ」

放っとかないわけだわ、小さくそう漏らしたネイサンが見たのは果たしてどちらだっただろうか。



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