Song of the murder. 11




「いい」
「いいって」
「ベッド、いい。ここでいい」
「あなたをここに置いて僕が寝たなんて、虎徹さんに怒られるのは僕なんです」
「だって、……寝れないから」
「……は…?」
「バーナビーが寝ればいい」

ふい、と彼女は窓の外へ目を向けたままで、バーナビーは溜め息を落とした。
彼女の眉が寄っていて、そうしたいのはこっちだと必然と息も深くなる。
やっぱりこれは手の掛かるものだったらしい。

「………」
「………」
「じゃあどうしたいんです?」
「…だから、ここがいい」




結局そのまま、バーナビーが折れ毛布を渡すと引き下がる。
PCを立ち上げメールのチェックや明日以降の予定の確認をして、しかしそれもたかだが30分に満たない程度しか過ぎてはいなかった。
こんなことならもっとゆっくりと風呂に入れば良かったな。
小さく溜め息をつきそうして自分が寝室にいく気にもなれないまま、バーナビーは一度キッチンへ行くとお気に入りのワインとグラスをリビングへ持ち込んだ。
座り直す前にちらりと見たエアは窓の外を見つめたままだ。

TVをつけると、丁度バーナビー自身がインタビューに答えていた。
自分で自分を観賞するなんて普段の自分なら気にも止めないはずが、寧ろ絶対に彼女が気にしないだろうことに余計に憚られたようになって別の番組に回す。
手は出すな、若い二人が。
虎徹に色々どうでもいいことを言われたそれをバーナビーはまた今になって思い出していた。
…何だか、調子が狂う。
何がだ、あんなペット同然の相手に。
しかし知らぬ間にグラスが空いて矢継ぎ早に足していた。

回していくとHEROTVが放送していた。
バーナビーのいない今期はやはりスカイハイが一位独走だ。
犯人を逮捕しお決まりのポーズをしたスカイハイ。
バーナビーもヒーローに復帰したとはいえ一部と二部ではほぼ顔を会わすことはない。
マスクで見えないはずなのに爽やかに笑っているだろうその彼の顔が思わず浮かんで、バーナビーは苦笑した。
それが終わってしまうと、どうでもいいバラエティー番組ばかりになってTVの電源を落とす。
変わりにそのモニターへミュージックPVを映し出した。
聞くのが寝入りばなというのもあるが、この時間に最近バーナビーが選ぶのは専らAばかりだ。
彼女がデビューして以降は選ばれた新進気鋭のクリエイター達によってそれぞれの新曲に合わせストーリー仕立てのPVが合わせられていた。
そのどれもが見事に彼女の世界観を表していると思うが、噂によると彼女はその制作に関して完全にノータッチらしい。

気がつくとエアがバーナビーの隣にずるずるとやって来ていてテーブルの横、バーナビーの足元にちょこんと座る。
毛布から顔だけ出たその後頭部。
珍しくエアが興味を持っているらしいと思いバーナビーは話し掛けた。

「…あなたも好きなんですか?彼女」
「彼女?好き?」
「ええ」
「あたし、こうなってるの初めて見た」
「…はぁ。そうですか」

そう言ってバーナビーはエアがあまり一般常識的な生活を送っていないと思い直し口を閉じる。
彼女は大きなモニターに釘付け、しかしその反射した光でぼんやりと見えるその眉は先程と変わらず寄ったままで。
見入っていると言うよりはまるで何か疑問に思っているように感じバーナビーは不思議に思う。

「どうかしました?」
「なんか…変なの。変な感じ」
「は?」
「変」
「変って………こういう曲は、好きじゃないってことですか?」

くるり、大きな瞳がバーナビーを見上げた。

「好きとか嫌いとか思ったことない」
「じゃあ何が」
「だから、全部。ふしぎ」

変なの、と繰り返すと興味を失ったのか窓際に戻って、彼女はまた動かなくなった。


バーナビーは彼女が何を変だと言うのかいまいち分からずそのまま観察していたが、いつの間にかアルコールが回ったのかふわふわとした眠りに落ちていった。



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