Song of the murder. 10




彼女を保護するようになって3日目。
始め2日は虎徹もバーナビーの部屋に泊まっていたが、3日目ともなれば着替えもないし流石に自分の家に帰った。
手は出すなよ、とか、若い2人が、とか別れ際虎徹は言いにくそうにしかし真剣な顔をしてバーナビーに言い含めた。
すっかり親気分もとい親猫気分なのか、それとも。
『それ』についての牽制なのか、バーナビーは推し量れずにいた。
見た目はまぁそれなりだが、自分はもう少し会話が通じる人間が好みだとバーナビーは思った。
2人きりに不安を覚えるまでもなく、それまでと変わらずバーナビーの部屋に帰れば彼女は窓に張り付いた。
手を出すも何も、何処かから本当にペットを預かったようだ、とソファに座りその姿を眺めた。

彼女について分かったこと。
チャーハンは嫌いでオムライスが好きなこと。
初日のオムライスは絶品だったが、しかしオムライスしか作れないこと。
2日目、少し他のものを期待したが彼女はなに食わぬ顔でオムライスを作った。

「オムライスか」
「…あなたと同じパターンですね」
「まさかのだな」

うまいからいいけど。
二人が小さくそんな会話をしていると、描き終わった彼女がいただきますと手を合わせる。
同じように手を合わせ食べ始めるが中身はバターライスではなくケチャップベースに変わっていた。
彼女について分かったこと。
中身のバリエーションは効くらしい。

因みに今晩は3人で外食、席は窓際。
彼女の要望でデミグラスソースの掛かったオムライスのある洋食屋を急遽検索した。
すると都合のいいことにシルバーステージにオープンしたばかりの日本人が一人でやっている店があった。
デミグラスソースのオムライスを前に、彼女が初めてほんの少しだけ口許を緩ませた。
それを見て虎徹が彼女なんかよりももっと嬉しそうな顔をして頭を撫でる。
いつもそうされると目を細める彼女だが、この時は反応せずもくもくとオムライスを食べた。

3日の間で出動は4回、全てアポロンメディアでデスクワークの途中だった。
社内なら安全だろうからとバーナビーが待機させようとするも毎回虎徹が押し切り、トランスポーターに乗せ連れ回すことになった。
そうしてこの3日、バーナビー達は側を離れずにいたが彼女に接触してこようとする者はない。
あの日、走り去った車に乗っていたのは何者だったのか。
地下駐車場の防犯カメラに映っていたのは2人で車のナンバーを検索するもそれは偽装ナンバー、いまだ発見されていない。
3人は何故彼女を拉致したのか。
そこまで考えて、血の海に浮かぶ死体が瞼の裏に過りバーナビーは眉を寄せ小さく首を振った。
無惨に殺された男。
仲間割れでもしたか、死因からしてどちらか1人はNEXTの可能性が高いと解剖で判断された。

「…ウロボロス……」

小さく呟いて、両手を握る。

何気無しにバーナビーが下げていた視線を彼女に戻すと、窓の外を見ていたはずの彼女と目があった。
バーナビーの肩がびくりと揺れる。
室内は電気をつけておらずシュテルンビルトの夜景だけが頼りだった。
逆光のはずで彼女の顔なんて影になり見えないはずが大きな瞳がキラキラと光を集め、バーナビーを捉える。
猫のようだ。
何度目か分からないことを、バーナビーは思った。



 → 



∠main