翠の瞳(櫂トシキ) 


「あのー、ちょっと教えて欲しいところが...」

「…………」

……やっぱり駄目か。

隣の席のクラスメイト、櫂トシキくん。
無口でクールなのに、クラスで1番明るい三和くんと常に一緒にいる。

そうだよねー、授業は集中して聞きたいよね。

うぅ゛...頑張るか。

ツンツン

ん?
私の後ろの席から背中をつつかれ、振り替える。

「なぁに、三和くん?」

「アズサちゃんさー、ここ分かる?教えてくれない?」

それは私が丁度分からなかったところだった。

「えっと...ごめん、分かんないや」

「そっかー…ん?どうした櫂?」

櫂くん...?
その櫂くんは相変わらずの無表情でこちらを凝視していた。

(うわぁ...瞳、凄く綺麗)

澄んだ緑に迷いの無い光。
だけど、見透かされないように何かを隠してるような...

こんな瞳をしてたんだなぁとやっと見詰めてから気付くなんて。

「勿体無いなぁ...」

「だよなぁ。もうちょい、こう...笑ってみれば」

「何か言ったか」

こちらを見詰めていた瞳が、私から外され三和くんの方を睨む。

「いや、だから...やっぱ何でも有りません」

ため息を間に挟み、三和くんはこっちを見て言った。

「まぁ、結果オーライっぽいしな」

(…………?)


私にはどういう事かさっぱり分からなかった。
何が結果オーライなのか、なぜ三和くんが私に向かって言うのか。

(ん...?櫂くん、またこっちを見てる)

二回もこうじっと見詰められると恥ずかしい、というかなんというか、
妙に複雑な心境になる。

「あの...私の顔に何か付いてる?」

いてもたってもいられず、苦笑混じりに首を傾け訊く。

「っ...!いや、何もない」

さっと私から視線を外し、手元の問題に目を向け、集中し直す櫂くん。
その表情は変わらなかったが、
少しだけ雰囲気に焦りが混ざっていた気がした。
私も前向きに姿勢を戻して、再び問題に取り掛かる。

「楠宮、そこは2の式を用いて代入して解け」

「え?」

「あー、なるほど!ここにそれな!」

後ろの席から三和くんの閃きの声が聞こえた。
私も言われた通りに代入し、問題を解いてみた。

「答えは出たか?」

「15?」

「正解だ」

そう言って、横を見るのと私に向かって
ふわりと微笑む櫂くんがいた。

(こんな風に笑うんだ...)

その表情は、男の人には少し失礼かも知れないけど、
確かに天使のようだった。
ふわりと優しくて、可愛い。

可愛い...?

あれ、この感想もまた失礼なのかな?

「ありがとう、櫂くん!」

私も負けじと笑ってお礼を言う。

「...あぁ」

「櫂のやつ、照れてやんのー!」

「三和。お前は1つ前の問題、間違ってるぞ」

えっ、マジで!?
と焦る三和くんに
櫂くんはフッと鼻で笑った。

それから、授業に集中している他の皆にバレないよう、
私の頭を軽く撫でて、

「頑張れ」

と優しい声色で言った。




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