【言い伝え】





どうやら今日は、俺が最後の依頼主らしい。
もう、随分長く馨と話し込んでいる...
真上に上っていた日は、既に西に傾き始めていた。

「あぁ、もうこんなに日が...東さん、そろそろお帰りになられた方が宜しいかと」

部屋の窓から外を覗いていた馨は、近くなった赤い日の光に目を細めていた。

「そうだな」

立ち上がろうとした俺に馨は真剣な声色で告げた。

「帰りの下り階段、鳥居を潜ってから、けして振り向いてはなりませんよ」

「...分かってるよ」

大抵はどこの神社にも独特な言い伝えはある。
この陽月神社に古くからある言い伝え、それは
『霊魂のお見送り』
その日に口寄せされた霊が、1番最後の客を見送ってくれると言うものだ。
"振り向いてはならない"とされているのは、
それが具現化されているため。
生きている人が見てはならないもの。

それがこの地に引っ越して、始めに聞いたジンクスだった。

馨はその鳥居まで見送りについてきてくれた。

「じゃあな、また来るから...たぶん」

「はい、お待ちしております」

何故か分からないけど、またこの陽月神社に来なきゃいけない気がした。
いつまで考えてても変わらないし、
それでは、と俺は馨に背を向ける。
鳥居を潜り抜け、石階段にゆっくりと踏み出した。

山奥にあるこの神社の石階段から見た夕日は
考えられないほどに
近く、赤かった。





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