【弱視の巫女】




「なぁにが、"姉は今海外研修中"だ!そんなことで俺は1ヶ月も振り回されてたわけ?!」

今まで行方不明になったとばかり思っていた、唯一の家族を心配していた俺は、その事実が馬鹿馬鹿しくて苛立ちを抑え切れなくなっていた。

直ぐ近くに置かれていた
算盤玉のような玉を連ねた数珠を掴み取って横に強く引っ張る。

「あっ、私の伊良太加!ちょっと!そんなに乱暴に扱わないで下さいよ!」

直ぐにパシッっと俺の手から《いらたか》と呼ぶらしい
数珠を取り上げた榊原 馨は俺より2歳下の18歳。

儀式が終わり、わりと年の近いせいもあってか
馨とは直ぐに打ち解けることができた。

「お姉さんの守護霊様も言ってたじゃないですか、あと数日したら戻るって。その時にぶつければ良いじゃないですか!何も私の伊良太加にぶつけなくても...これ、結構高いんですから」

「なんで姉貴が数日したら戻るってお前が知ってんだよ。憑依されてたんだろ?」

神託ですよ、神託!
これも口寄せの能力です!
、と半ギレ状態で説明をされた。

「それと、東さんのお姉さんは貴方に心配を掛けたくなかったんですよ。たった一人の家族に余計な心配はして欲しくないって。だって、1ヶ月の海外研修ってかなりお金が掛かるじゃないですか。いくら仕事のためとはいえ、貴方には負荷にしかならないんですから」

両親は既に他界し、
姉と二人暮らしの俺に
仕事で必要な海外研修は、
申し訳ないと思ったのだろうか。
だから何も言わずに1ヶ月も...
どこまで自由奔放な姉貴だ。

「結果的に迷惑掛けられてるつーの。悪かったな、こんなくだらない事で依頼なんかして」

「いえ、これ以上にくだらない依頼なんて、今まで沢山受けてきましたから」

例えば?
と聞き返すと、ご丁寧に例を付けながら
恋愛や不倫、仕事や友人関係など、
いわゆる占い気分で口寄せを利用する人が多いことを教えてくれた。
これも自分の仕事だから仕方ないんだと...。

「大変なんだな、"イタコ"って」

(そんな女みたいな格好もしなくちゃならないなんて...)

「これは正装です。別になんとも思ってませんっ」

「………何、イタコって心の中まで読めんの?」

「見れば分かりますよ。顔に書いてありますから」

「盲目な癖に」

「私は盲目ではなく、弱視です」

あー、そう。
ははっ、人間って怖いな、"イタコ"さま。






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テーマ「人外ファンタジー」
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