【響く祭文】
「口寄せのできるそういった女性を、"イタコ"と呼ぶんです」
厳しい修行を積まなければならないため、近年は継承者に困っているそうですよ。
ほら、近年はその修行に耐えられるような強い女性がいませんから...
とまるで自分には関係無いように語りかけてきた巫女装飾の男に、俺は限り無く違和感を覚えた。
「で、あんたは?なんで男なのに"イタコ"なんてやってんの?」
薄暗い空間の中、
その男、いや、少年は
儀式の席を整えつつ言った。
「私は、榊原 馨と申します。私には"口寄せ"しかできる事はありません。」
本来、"口寄せ"は女性のみが可能な降霊(憑依)術らしい。
その特別な"口寄せ"を何故、榊原 馨という男が行うことができるのか。
「私のこの能力は、突然変異と言う他無いんです。神のお考えか、はたまた見境の無い偶然か...」
つまり、榊原 馨にもよく分からないっぽい。
「それで...大丈夫なのか」
「ご安心下さい。しかと修行は積んであります」
そう微笑みながら言うと、
俺の両頬に手を当て、お互いのおでこをコツンと寄せた。
「東 水都さん。今から貴方のお姉さんの守護霊を、私の身体に呼び寄せます。決して目を開けてはなりません」
すると榊原 馨は、算盤玉のような玉を連ねた数珠を揉んで、高い音を立て出した。
俺は言われたままに目を伏せる。
それから、彼の口から発せられる祭文は、まるで溶け込むように頭の中に響いてきた。