「うーんっ、今日もユキの毛並みは好調だね」
我が相棒のウサギ・ユキのふわふわな毛並みを整え、抱き締める。
ギィっと鳴いた白兎の天使に俺はごめんごめんと謝り、隣で絵を描く弟に話し掛けた。
「今日は何描いてんの?花?」
「うん、そう。文目(あやめ)って言う花だよ。花言葉は希望とかメッセージって意味」
「ふーん…」
目の前には紫色をした花が規則正しく綺麗に並んで咲いていた。
昔から紫音は絵を描くのが好きだが、その中で断トツに多いのが花の絵だ。
今では花の名前や花言葉まで分かるようになってしまう程、花には愛着があるようで、こうしてたまに知識を聞かされる。
「それとね、この花は僕たちにとっても身近なものなんだ」
「どう言うこと?」
「6月3日、誕生花だよ」
「誕生花...そう考えると、なんか不思議な気分だな」
「面白いでしょう?だから好きなんだ、花は」
楽しそうに微笑む弟の顔を横から眺めていると、紫音はこちらを振り返り、俺が手元に抱くユキを眺めた。
「ねぇ神音、その...ユキを触っても..」
「やだ」
「うぅ゛...どうしても?」
「ユキは俺のだもん!ユキと俺は一心同体っ!ね、ユキ?」
紫音のお願いを素早く否定して、ユキをギュッと抱き締める。
ユキは俺に顔をすり寄せてまるで当然と言うかのようにギィッ!と返事をしてくれた。
あぁ、もう、なんでこんなに可愛いんだ...!
「触るくらい良いじゃない...」
「やーだっ」
拗ねた弟は不満足そうに再び筆を進める。
俺は紫音の花好きなところも羨ましいけどな。
花に意味を託すって良いじゃん。
そんな花を好きな紫音はきっと自分を分かってるんだろうな...
そして相手を気遣うことも。
なんか紫音ってモテそう
なんて思いながら、
そんな紫音の頭の上にユキを乗せる。
焦っても嬉しそうな弟に少し嫉妬に似た何かを感じた午後だった。
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