「ルシエル」
中庭に繋がる廊下の前に差し掛かったとき、後ろから凛とした声に呼び止められた。
「お母様」
振り向くと同時に笑顔を作る。
母はどうやら、中庭の花を眺めていた様で、日傘を閉じながら手招きしている。
僕は涼しい顔のまま母の側に寄った。
「どうしたのですか、お母様」
「今日はどの様なお話を聞いたの?」
「レオハルト家誕生のお話を聞かせて頂きました。レオハルト家の名は、騎士団の名前だったのですね」
そしてレオハルト騎士団はネヴァ家に仕えていた。
そんなレオハルト家が何故王家に成り上がったかというと、つまりは下克上だ。
どうやらネヴァ家のやり方が気に入らなかったらしい。
そのやり方がどんなものだったかまでは、まともに聞いていない。
聞いていたのは、戦争の地が"永遠の国"と呼ばれたこの地、国名がネヴァ・ラート国だと言うことだ。
「あれはとても酷い内乱だったそうね」
母の口からまるで他人事の様に語られる話を、僕は適当に相槌を打ちながら聞いていた。
母のこう言うところが僕は苦手だった。
「ところでお母様、そろそろリレンが戻る頃だと思うのですが」
話が一段落したところで別件に移すための横槍を入れる。
一刻も早く母の側を離れたかった。
「そうだったわ、この後はリレンわ連れて別荘に行かなければならないのよ」
「存じてますよ。さぁ、急いで下さい」"悪いわね"と言って持っていた日傘を僕に押し付ける様に渡した。
急ぎ足で去っていく母の後ろ姿を見送って、僕は身を翻し、また自室に戻る廊下を進む。
リレンは僕の弟だ。
ただ僕とは正反対の扱いで学校にも行ってるし、休日なんかは母と外出もしている。
リレンの事は羨ましかったけど、それ以上に大好きだった。
家にいる時は一緒に遊んでくれるし、外の話も聞かせてくれる。
(………だからかな、余計に外が恋しくなるのは。)
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