消え入る声
「遅いよ」
雨の中に踏み出した瞬間、
私の体は左手首を掴まれ、体勢を崩し左へと傾いた。
―――倒れる!
痛みを覚悟して目を瞑るが、痛みとは反対にフワッとした感覚に包まれた。
恐る恐る目を開けると、
濡れて透けてる制服と
確かな人の体温が有った。
「時間掛かりすぎ」
低い声はさっきまで聴いていた声。
その声の主を見上げると、
雨に濡れて一層黒く見える黒髪と安堵した笑顔が見下ろしていた。
雨に体温を奪われた彼の体は冷えている。
だけども人の温もりだと分かる体温に
私の温かい体温が重なると、
抱き締められて、触れ合ってる部分だけが温まった。
「...温かい」
彼の今にも泣きそうな声に私の心臓はキュッと引き締められた。
そしてそれをきっかけに
脈打ち始める鼓動を私の脳は無意識に認識する。
(は、離れないとバレる!)
速まる鼓動を悟られる前に離れるべく、
彼の体を押す。
しかし、反対に彼は私を更に強く抱き締めてきた。
「もう...きづ...ない..った」
彼の声は雨音と重なる鼓動に消え入り、私の耳には微かにしか届かなかった。