立向居連載 | ナノ









「グランっ、ジェミニストームが負けたって、」


青い顔をして練習場に入った私を見たのはグランではなく、ダイアモンドダストのキャプテン、ガゼルだった。どうやらガイアのみんなはお父様に呼ばれているらしい。ちょうど練習していたのがダイアモンドダストだったというわけだ。ガゼルは特に興味を示したような様子も見せず「そうだね」とだけ言ってサッカーボールへ視線を落とし器用にリフティングを再開する。


「え、エイリア石がただの人間に負けたの…?」
「たかがジェミニストームが負けただけだ、エイリア石が負けたというには些か語弊がある」
「でもジェミニストームはエイリア石を持ってたし、」
「アリーシャ、君がそこまでエイリア石に固執する意味をわたしは知らない。探ろうとも思わない。だがこれだけは言っておく、ジェミニストームが負けたくらいでそこまで取り乱す必要など皆無だ」


所詮あの程度。そう言っている間もガゼルはリフティングを止めず、不意にボールを離すと踏みつけるようにして止めた。彼の癖なんだろうか、前髪を左手で梳くように弄んでいる。


「…そう、だね。ジェミニストームがエイリア石の力を上手く使えなかっただけだよね」
「わたしはそう思っているが。既に父さんがイプシロンをジェミニストームの処分に向かわせた。わたしたちが気にすることはない」


処分、そう聞いて安心しかかった私の心はまた大きく揺れた。此処での処分という意味を、私はよく知っている。


「じゃあ、ジェミニストームのみんなは…」
「今頃はもう既に処分済みだろう」
「そ、そんな」


記憶を消され此処から追放される。軽い記憶喪失状態で見知らぬ土地に放り出されるのだ。マネージャーとして働いてはいないもののジェミニストームのメンバーもお日さま園からずっと一緒に育ってきた仲間だ。みんなにもう会うことができない、歯ががちがちと鳴りそうになった。


「役立たずはああなる運命だ」
「!」
「わたしたちも全く無関係というわけではない。他人の心配より自分の心配をした方がいい」


静かに告げられたガゼルの言葉は冷たくて、けれど私を思い遣っての忠告なんだろう、薄らとぎこちない優しさを感じた。顔を上げると既にガゼルはダイアモンドダストのメンバーの方に向かっていて練習の内容を告げている。俯きながら溜息を吐いて、誰にも聞こえない程度の声量で呟いた。


「役立たずは、必要ない」


私にも言えること。
みんなのドリンクを用意するべく練習場に背を向けた。私はエイリア石を持たない、ガイアのように特別な選手でもない。此処に居続けるために、私がみんなの役に立てること。それは唯一のマネージャーとして働くこと。
不意に脳裏に思い浮かんだのはジェミニストームが倒されて嬉々とした表情を浮かべた立向居くん。あのはにかむような表情が好きなのに、今はそれが少し、憎かった。


「レーゼたちが…無事でありますように…」


堕とされた天使は、それでも神に願う。





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