立向居連載 | ナノ







私はあの日からたまに陽花戸中を訪れるようにしていた。彼、立向居勇気と話している時は何も考えなくていいからだった。役に立つとか立たないとか、計画のこととか、色々。もちろんマネージャーとしての仕事は全てこなしているし、今まで通りに過ごしている。ただその「いつも」にほんの少し自由な時間を混ぜ込んだだけだ。だから相変わらず計画に支障は出てないだろうし大丈夫。
立向居くんが私をどう思っているのかは知らないけれど、少なからず会いに行っても嫌な顔せず笑顔で迎えてくれる辺り、嫌われてはいないようだ。私は彼のはにかんだような表情が好きだった。それから必要以上に彼が私について聞こうとしないところも。だからエイリア学園だとは言わなくて済んでいるし、彼も他校の生徒だと思っているらしい。それで十分だった。


「ゆい先輩は不思議な人ですね」


そんなとある日のこと。立向居くんはあの透き通った瞳で私を見ながらそう言った。不思議とはどういう意味か、そう尋ねた。


「俺、ゆい先輩と出会ってそう長くないのに、そんな感じがしないっていうか」
「奇遇だね、私もだよ」
「本当ですか?俺だけじゃなくてよかった!」


にこり。そう言って彼はまた笑う。私も彼のように笑顔の絶えない人間になりたいと思うけれど実際のところそれは難しかった。それでも最近はよく頬が痛くなるし、以前よりは表情に変化が見られるのかなあと思ってみる。私は私を第三者として見れないから、本当はどうなのか分からないけれど。
今は陽花戸中のグラウンドの端、サッカー部の練習の合間にこうして話し相手になってもらっている。でも少しだけだ、もうすぐでグランたちの練習が終わる。そしたら私はまたマネージャーの仕事をこなさなければいけない。そろそろ帰ろうか、そう思って立向居くんの方を振り向いた。そんな時、遠くから陽花戸中サッカー部の他の部員(確かキャプテンだったような気がする)が校舎の方から立向居くんを呼んでいた。


「立向居!雷門中が宇宙人を倒したぞ!」
「えっ、本当ですか!?」
「…倒した…?」


一瞬何の話か分からなかった。私の隣で目を輝かせる立向居くん。宇宙人、それは即ちお父様が差し向けたジェミニストームのことだ。エイリア石で強化された彼らが、ただの人間に倒された?エイリア石の力は絶大だ、私は与えられていないけれど、その力の凄さはよく知っている。信じられなかった。


「やったあ!やっぱり円堂さんは凄い!」
「ジェミニストームが…負けた…」
「…ゆい先輩どうしたんですか?宇宙人が倒されたんですよ、もっと喜ばないと!」


その屈託の無い笑みは今の私にとっては心を満たすものではなかった。そうだ、わかった、ジェミニストームはエイリア石の力を最大限に引き出すことが出来なかったんだ。だから負けた。それだけだ。自分に何度も言い聞かせるように胸の中で呟く。校舎の方へ駆けていく立向居くんの背中にちらりと視線を遣って、震えそうになる唇を噛み締めて、私は校舎と逆の方向に足を向けた。帰らなきゃ、グランたちに会わなきゃ。


「ゆい先輩も一緒に…あれ?いない…」
「立向居、早く来い!」
「あっ、はい!」


立向居くんの誘いを聞くこともなく、私はお父様の、グランたちのところへ急いだ。


(エイリア石がただの人間に負けるわけない!エイリア石の力は絶対なんだ、あれさえあればみんなの役に立てる、私が役立たずじゃなくなる、そんな石なのに…)





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