立向居連載 | ナノ









此処のところアリーシャがよく笑うようになったと思う。俺はお日さま園に居たころから彼女をよく見てきたつもりだし、昔の彼女は今なんかよりもっと笑う子だったということを覚えている。アリーシャから笑顔が消えたのは確か、そうだ、みんながエイリア石を授けられた頃。そして俺はその理由を知っている。彼女は体質上エイリア石を受け付けない。その時に父さんはこのようなことを言ったらしい。「役に立たないならいらない」と。それからアリーシャは必死になって父さんの、そして俺たちの役に立とうとしてる。それが彼女から笑顔を奪い去った。結果的には父さんが奪ったと言ってもいいんだろうか。皮肉な話だ。
けれど俺に口を挟む権利などなかった。だからせめて少しでも彼女を、アリーシャを支えることができたなら、そう思い始めたのも確かその辺りから。そんな彼女に少し笑顔が戻った、それは嬉しい限りである。けれどどうして笑顔が戻ったのか、それは俺には分からなかった。


「アリーシャ」


練習の休憩の合間、みんなにドリンクやタオルを配るアリーシャに声を掛けた。ちょうど全員に配り終えたのか彼女の手は空いていて、アリーシャは俺の方を見て今日もこう言う。


「お疲れ様、グラン」
「うん、ありがとう。アリーシャもいつもお疲れ様」


今までなら此処で愛想笑いのような作った笑みを浮かべていた。けれど此処最近の彼女は少し違う。はにかむような笑みを浮かべ緩く首を振るんだ。その仕草が、その表情が何処から来ているのか、俺は知らない。


「アリーシャ、この前出掛けたんだって?」
「えっ、どうして…ああ、お父様か」
「そうだよ、聞いたんだ。珍しいね、君が出掛けるなんて」


今までずっとこの基地の中にいた…否、そうではない。たまに研崎さんたちと一緒に何処かへ出掛けているのは知っていた。何をしているのかは知らなかったけれど、彼女はマネージャーで俺たちは選手だ。何か別のことをしていてもおかしな話じゃない。だから突っ込んだことはなかった。とにかく彼女自ら「出掛けたい」と言うなんて思わなかったから、初めて聞いた時は少し驚いた。


「ちょっとね。外の空気を吸いたくなって」
「…ふうん、急だね」
「そうかな。たまにグランが出掛けてるって話を聞いたから、私も出たくなっただけだよ」


外の空気を吸ったから、笑顔が戻ったのか。…疑わずには居られなかった。けれどその何かが彼女に笑顔を取り戻させたなら、俺は文句を言うつもりはない。寧ろありがとうと言うべきなのかも。だから俺はアリーシャの下手な嘘に付き合うことにした。自然と笑みを浮かべる。


「そう。じゃあ今度俺と一緒に出掛けようよ。外の世界は結構楽しいから」
「いいの?私、お父様に計画の邪魔にならなければって言われてて…」
「大丈夫、邪魔はしてないから。それに父さんには俺から言っとく。だから、ね?」


そう言うとアリーシャの目が少し輝いて、嬉しそうに笑った。「ありがとう、グラン」その口で俺の本当の名を呼んでくれたらいいのにな。そんなことを思う俺は、アリーシャのことが好きなんだろう。ずっとずっと、誰よりもずっと前から。
だからもう一度言う。アリーシャの笑顔を取り戻してくれた何かへ、ありがとうって。

ジェミニストームが北海道へ向かった、次の日のことだった。





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