立向居連載 | ナノ










お父様は予想に反して、あっさり外出を許可してくれた。「計画の邪魔にならない程度になら許可しましょう」とあの穏やかな笑みで言ったのだ。嬉しかった。私はお父様にお礼を言って用意していた箱を持って外へ出た。目指すは陽花戸中学、立向居勇気という男の子がいる場所だ。

記憶を頼りに以前の場所へ向かう。気付けば夕日が照らす街で、以前は木々の中だったから風景なんて見てなかったけど(そんな状況でもなかったし)よく見ればとても綺麗なところだと思った。明るい夕日を受ける大きな校舎が一つ。陽花戸中はきっと此処だろう。校舎の方から聞こえてくる声の方へ向かいながらグラウンドを探した。その夕日に染まったグラウンドで練習していたのは、サッカー部だった。


(確かサッカー部って言ってたっけ)


きょろきょろと見渡しているとすぐに例の男の子を発見した。明るい色の髪がぴょこぴょこと揺れて、今はゴール前で腰を低くしている。彼はキーパーだったのか、そう思っていると彼の身体からすごいオーラが漂ってきた。


「ゴッドハンドー!」


その掛け声と共に、気付けばゴールネットを揺らすはずだったボールは彼の片手に納まっていた。グラウンドの彼方此方から「よくやったな立向居!」と声が聞こえてくる。嬉しそうにはにかむ立向居くんは、あの時と変わっていなかった。


「あのー」
「はい、…あっ!」


背後から声を掛けて彼が振り返ると驚いたような表情を浮かべられた。最初は笑顔で、そう決めていたからか分からないけれど、自然と頬が持ち上がる。


「今の技すごかったね」
「あ、ありがとうございます…って、そうじゃなくて!」
「久しぶり、立向居くん」


彼の近くにいた恐らく同じサッカー部であろうメンバーが不思議そうな表情を浮かべていた。そんな彼らの視線に気付いたのか立向居くんは私の手首を掴んでグラウンドを後にする。彼が手を離したのは人目につかない校舎裏だった。


「傷、残っちゃったんですね」
「ん?でも大丈夫だよ、もう痛くないから」
「そうじゃないです!…女の子の顔に傷なんて、良くないですよ」


そっと頬に触れた立向居くんの手はごつごつしてて、傷だらけで、どれだけ彼が特訓を繰り返したかというのがよく伝わってきた。私に負の感情を持たずに触れてくる人なんて今までいなかったから、なんだかその行為が少し気恥ずかしく感じて。私は持ってきた箱を彼に差し出した。


「これ、この前のお礼」
「え、べ、別にいいですよ!俺何もしてないし、」
「いいから、受け取って。色々助かったんだからさ」


少し渋るような表情を浮かべていた立向居くんだったけれど最終的に折れたのかそっとその箱を受け取るとぺこりと頭を下げて「ありがとうございます!」と言ってくれた。誰かに贈り物をするなんて初めてなんだけど、大丈夫だろうか。そう不安に思っていたことも余計な心配だったらしい、立向居くんは嬉しそうに笑っていた。


「あっ、今度こそ聞かせて欲しいことがあるんです」
「なに?」
「名前、教えてください!」


そういえば名乗らずに帰ったんだったか。二度も名乗らないのはさすがに失礼かなあと思いつつ私は彼に名乗る一番いい名前を考えていた。あの場での名前はさすがにおかしいか、それなら本名でもいいだろう。私の本名を言ったところで計画に何の支障も出るはずが無いんだから。


「藤城ゆい」
「先輩…ですよね?学校は違うみたいですけど」
「かな?私は14歳」
「あ、やっぱりそうだ。俺の1つ上なんですね」


分かってよかった、そう言ってまたはにかむ立向居くん。彼の笑顔は私を温かい気持ちにしてくれる。私にとっては珍しい男の子だ、そう思った。


「それじゃあ、もう行くね」
「あっ、待ってください、ゆい先輩!」


まさか先輩だなんて呼ばれる日が来るとは思わなかった。少し擽ったい思いを胸に抱きつつ私を呼び止めた立向居くんへと視線を移す。すると彼はあの透き通った綺麗な瞳で私を見つめながら言った。


「また逢えますよね?」


夕日に照らされた彼の顔は泥だらけで指摘してやろうかと思ったけどやめた。逢った時と同じように片手を軽く振って彼に背を向ける。その時には自然と笑顔を浮かべられていた。


「うん、またね」





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -