立向居連載 | ナノ












「アリーシャ、何をぼーっとしているんだい?」


ふわふわの白いタオルを抱きしめたまま、どうやら考え事に耽っていたらしい。名前を呼ばれてぱっと顔を上げると目の前に立っていたのはグランだった。「ううん、なんでもないよ」そう言って笑うと隣から現れたのは青い髪が綺麗な女の子。


「…アリーシャ、その傷はどうした」
「え、傷?」
「本当だ…頬に傷が」
「っ、」


ウルビダが私の頬に手を伸ばしてきて、そこでようやく気がついた。研崎の手下の大人たちに蹴られてできた傷、今回は確か顔にまでついていたんだったか。慌てて一歩彼らから後退して自分の手で片頬を覆うようにする。無理矢理口角を上げた。上手く笑えて、いるだろうか。


「大丈夫だよ。ちょっと転んじゃって」
「転んでできる傷か?」
「ちゃんと手当てしなかったんだろう?痕が残っちゃうよ」
「ウルビダもグランも心配しすぎだよ、本当にこれくらい大丈夫だから」


尚も怪訝な表情を浮かべたままの二人にタオルを渡してさっさと背を向ける。二人に嘘を突きとおせるほど私は器用じゃなかった。こういう時は早めに撤退するが吉だ。近くにあったトイレに入ると並べられた鏡の前に立つ。そこに映った私は、とても酷い顔をしていた。


「…やつれてる」


そんなこと最近始まったことじゃないけれど、頬に出来た傷はもう閉じていて茶色い痕を残し、目の下には薄らと隈ができていた。服を脱げば見るのも気持ち悪い痣がまだ身体中に残っている。自分の顔を見て大きく溜息を吐くとすぐに蛇口を捻り出てきた水で顔を洗った。さすがにこんな顔では二人とも気付いてしまう。持っていたコンシーラーで隈を隠した。これで一先ずは安心だ。


「立向居勇気…」


そんな時にふと脳裏を過ぎったのは私を助けてくれた明るい髪の男の子。はにかむような笑顔が特徴的で、何故か私は彼を脳裏から消し去ることができなかった。逢う必要もないだろうと名乗ることはなかったけれど、今思えば研崎の手下たちが暴力を止めたのは彼のおかげだ。あの日から私は研崎に会っていない。偶然だとは思うけれど、それでも私にとってはいいことばかりだった。ちゃんとしたお礼を言うべきなのかもしれない。


(そういえばグランはたまに一人で何処かに出掛けてるんだっけ)


お父様に一言頼んでみてもいいだろうか。私も出掛けていいですかって。無理に置いてもらってる分際でなんだと思われるかもしれないけれど、それでも計画の邪魔にさえならなければ好きにしていいはずだ。鏡の中の私に指先で触れて、その場を後にする。ぽちゃん、と背後で蛇口から水滴の垂れる音が耳に届いた。



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