立向居連載 | ナノ




あれから数年が経った。私、藤城ゆいことアリーシャはエイリア学園のマスターランクチームのマネージャーとして此処に置いてもらっている。ちなみにアリーシャとは私の此処での呼び名のようなもの。あの日お父様に縋ってから、私はお父様には従順だと思う。ただそんな私を好いていない人もいるみたいだけれど。でもお日さま園から一緒にいたみんなは、私を嫌ってはいないようだった。今まで通り接してくれるし、マネージャーとしての位置もそう悪くない。私はお日さま園のみんなが、それから、お父様が好きだった。


「今日もお疲れ様、グラン」


赤い髪が重力と逆の方向を向いている。そんな男の子に背後から声を掛けてドリンクを差し出した。振り返った切れ長の深い緑を灯した瞳は柔らかく孤を描いて、私の手からそれを受け取る。


「いつもありがとう、アリーシャ。助かるよ」
「ううん、これが私の仕事だから」
「そういえばアリーシャ、父さんから話は聞いたかい?」


彼の口からお父様の名前が出た途端、私はすっと目を細めた。何のことだろうかと耳を傾けると、グランはドリンクを少し口に含みながらこう言った。


「計画は実行に移されたんだって」
「…そうなんだ」
「うん。もうジェミニストームが動いてるよ。いよいよだね」


計画。それはお父様にとっての全てであり、私たちにとっても全てだった。それがとうとう始まるのかと思うと緊張せずにはいられない。小さく息を吐き出して前を向き、グランににっこり笑いかけた。


「教えてくれてありがとう。じゃあ私、もう行くね」
「ああ、またね、アリーシャ」


踵を返して練習場を出て行く。背後で扉が閉まるのを確認して、私は靴の底で静かな廊下に音を響かせた。お父様が計画を実行なされた。私も役に立たなくては、何か自分に、できることを。そう思いながら俯き気味に歩いていると、不意に目の前に黒い服の人物が立っていることに気付いた。突然のことに気付けなかった私は当然のことながら彼にぶつかり、尻餅をつく。


「っ…申し訳、ありません」
「これはこれは、アリーシャではないですか。何処を見て歩いているんでしょうね」


耳にした声に全身が鳥肌を立てる。私はこの男の名前を知っている、そして、この男が私をどう思っているのかも。顔を上げると底には少し緑っぽい肌をしてサングラスを掛けている男が数人と、研崎竜一という男。厄介なやつに捕まったものだと小さく息を吐いた。


「まあいいでしょう、ちょうどあなたを探していました」
「私を…ですか」
「そうです。少し彼らとお散歩でもどうかと思いまして」


にやり、効果音をつけるならそれが正しいであろう嫌に歪んだ笑みを浮かべた研崎。彼はエイリア石を拒む体質の私を忌み嫌っている。本当は私がお父様に見捨てられることを望んでいたけれど結果こうして置いてもらっていることを良く思っていないらしい。私はこれから一体何が行われるのか安易に想像がついた。けれど私にそれを拒む手段などありはしない。悔しいけれど結局私は力では勝てないのだ、エイリア石を持つことのない私は。ぎりっと奥歯を噛み締めて、消え入りそうな声で小さく呟いた。


「…はい、研崎さま」
「では行きましょうか、アリーシャ」


周りの大人たちもにやにや笑ってる。虚ろな瞳のまま、私は無機質な地面をじっと見つめていた。



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