立向居連載 | ナノ











瞼が重い。なんだか目の前がちかちかする。無理矢理こじ開けようとゆっくり瞼を開くと、俺の視界に入ったのは赤い夕日に染まった空だった。しばらく視線をふわふわと漂わせてようやく俺は横に寝かされているのだということに気付く。両腕を体の横についてゆっくり上半身を起こすと腹部に鈍い痛みが走った。


「あっ!大丈夫?立向居くん」


この痛みはなんだ、そう思っていると不意に近くで聞こえた声に顔をそちらへと向ける。雷門イレブンのマネージャーである木野先輩が此方へ歩いてきた。彼女は両手いっぱいに大きな籠を抱えていて、その中には数本のボトルが入っている。


「俺は…」
「ジェネシスとの試合のあと、ずっと気を失ってたの」
「あ…!」


ジェネシス、そう聞いて俺は我に返ったかのように全てのことを思い出した。円堂さんのお友達が宇宙人だったこと、その中にゆい先輩がいたこと、俺はその宇宙人に勝負を挑み、そして、圧倒的な差を見せつけられて負けたこと。慌てて辺りを見渡したけれどそこには宇宙人の姿もゆい先輩の姿もなく、ただ空と同じように夕日に染められたグラウンドがあるだけだった。


「雷門イレブンとジェネシスの試合は…」
「…酷かったわ。ジェネシスに全く歯が立たなくて…風丸くんが、すごい怪我を負って…」
「そんな…」


あの憧れの雷門イレブンですら歯が立たなかっただなんて、信じられなかった。目の前がぐらりと揺れたような錯覚に陥り慌てて額を押さえる。


「陽花戸中のみんなも怪我してて…今は保健室に、」
「許せません…」
「え?」
「サッカーでああやって人を傷つけていいはずなんか、ないんです」


身体的にも、精神的にも。ゆい先輩が自分から望んであの場に立っていたはずがない。きっと何らかの理由でエイリア学園から離れられないだけだ、だからすごく悲しそうな顔をしていたんだ。陽花戸中のみなさんを傷つけたことも、ゆい先輩を傷つけたことも、俺には許せなかった。唇を噛み締めたまま俯いていると、不意に木野先輩が「そういえば」と口を開いた。


「立向居くんに伝言があるの」
「伝言…?」
「ジェネシスのマネージャーの女の子から」
「!」


その名前に咄嗟に顔を上げると木野先輩は少し困ったような表情を浮かべながら首を傾げる。


「私にはよく分からないんだけど…」
「な、なんですか?」
「『天使じゃなくてごめんなさい』って」


どくんどくんと心臓がうるさく鳴っているのが聞こえた。嫌な汗が背中を伝い、何も言葉が出てこない俺はもう一度俯くしかないようで。どうか俺がただ深読みしすぎているだけだと信じたい、けれどどうしてもこう考えてしまう。『本当は敵だった、ごめんなさい』こう言いたかったのではないか、と。彼女が自らあの場所を、エイリア学園を選んでいたのではないかと。

何を信じればいいか分からなくて、ただただ悔しくて、俺は「そうですか」と返すことしかできなかった。







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