立向居連載 | ナノ









マネージャーは選手じゃないからフィールドの中に立ち入ることはできない、だからフィールドの外からじっと試合を見ていた。円堂くんは何か言いたそうにこっちを見ていたけれど目を合わせずにずっと逸らすようにして。その試合は見ていられないものだった。圧倒的すぎて、いや、そんなのは分かっていたんだけれど、陽花戸中のみんなが一人ずつ倒れていく様子は私にとって苦痛でしかなかった。最後の一人、立向居くんに対しグランは何か話し掛けていた。なにを話していたかまでは聞こえなかったけれど、グランが両手を強く握りしめて滅多に出さない大きな声で叫んだその言葉は、よく聞こえたんだ。


「うるさい…っうるさい、うるさい!」


その声量に驚き目を瞬かせていると、ゆっくりコマを送るように立向居くんがその場に膝をついて、倒れた。サッカーボールが転がって止まる。グランが一歩ずつ彼に近づいていくのを見た途端私は何時の間にか走り出していて、自分でも驚くくらい勢いよく彼の手首を掴んでいた。慌てて静止の声を掛けたまではよかった。けれどその後、振り返った時のグランの表情を見て、私は彼を直視することができなくなった。
だって、なんだかすごく、悲しそうな顔をしていたから。














立向居くんは雷門中サッカー部のマネージャーの子たちによって手当てをされて、寝かされていた。他の陽花戸中の人たちも同じように手当てしてもらっていて、どうやら私のでる幕はないらしい。とは言うものの私は彼女たちからすれば敵のチームなわけだし、当たり前なのだけれど。その後の雷門イレブンとジェネシスの試合も圧倒的なものだった。結果は最初からわかっていた、だからどうにも思わない。けれど私の胸の中は靄が掛かったままだった。本当にこうすることが正しいことなのか、お父様が望んでいることだとしてもそれは誰かを傷つけてもいい理由になるというのだろうか。自問自答を繰り返すけれど正しい答えがどれかだなんて私には分からない。
ただ無表情でぼんやりと試合を見ながらちらりと時計を確認した。もう時間もない、得点差はかなり開いている、ジェネシスの勝ちであることは間違いないだろう。私はゆっくりと雷門イレブンの方へ近寄った。フィールドを心配そうに見ているマネージャーたちと陽花戸中の生徒、その中で茶色い髪をした女の子が私を振り向き険しい表情を向けた。


「…なに?」
「えっ…と…」


その声に他のマネージャーや陽花戸中の生徒たちも此方へと顔を向ける。どうにも居た堪れなくなった私は目を泳がせた後、そっと口を開いた。


「立向居くんが目を覚ましたら…伝えて欲しいことがあって」
「…自分では言わないの?」
「私はもう、行かなきゃいけないから…」


ちらりとフィールドを見遣って審判がホイッスルを口に咥えるのを確認してから、私は女の子へと視線を戻してにっこり笑いかけた。彼女は少し驚いたように目を瞬かせていて、その大きな瞳に私が映っているのが見える。私にはどうしても彼に伝えておかなければならないことがある。直接伝えられないとしても、せめて言葉だけは彼に届くようにと。


「あのね、」


すうっと息を吸って私が言葉を発すると同時、グラウンドに大きくホイッスルの音が鳴り響いて、試合が終わったことを告げた。







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