立向居連載 | ナノ









黒い煙が現れて、目を見開いた。その先に居たのは、思いもよらぬ人物だった。
円堂さんがお友達のチームと対戦すると聞いたのは今朝のことだった。そのチームは12時ちょうどになったらこの陽花戸中のグラウンドにやってくるらしい。だから俺を含む陽花戸中サッカー部は円堂さんたちの試合を実際に見せてもらおうとグラウンドに集まっていた。そんな時だった、円堂さんのお友達のチームの端に見覚えのある人が現れたのは。


「ゆい…先輩…?」


先輩の髪がふわりと風に揺らいで、悲しそうな瞳が俺を映す。よく見ればそのチームのユニフォームは見たことのないようなもので、俺はそれによく似たものを以前テレビで見たことがあった。エイリア学園のユニフォームに、そっくりだったんだ。


「ヒロト、お前…宇宙人だったのか…?」


円堂さんの動揺した声が聞こえた。けれど俺はきっと円堂さん以上に動揺している。今だって強く奥歯を噛み締めなければ歯がガチガチと鳴りそうなくらいなんだから。ゆい先輩は俺と目をあわせて暫くすると避けるように俯いた。それと同じくして、赤い髪の…円堂さんにヒロトと呼ばれた人が数歩前へ出る。仲間に呼ばれている名前からしてどうやらグランが本当の名前らしい。腕につけた腕章を見る限り、どうやら彼がキャプテンのようだ。


「それに…ゆいも!」
「…っ」


円堂さんが強い視線を送ると共にゆい先輩の名前を呼んだ。先輩が息を呑んでその瞳に哀しみの色がより一層深く刻まれる。円堂さんはゆい先輩と知り合いだったのか、どうして知り合ったのか、疑問は生まれる一方で消える様子はない。


「宇宙人だとかそうじゃないとか、サッカーに関係あるのかな」
「え…?」
「俺たちは純粋に君たちとサッカーがしたいだけ。円堂くんたちのサッカーを見せて欲しいんだ。…ただ、一つ条件があるんだけど」
「…なんだよ」
「俺たちが勝ったら、円堂大介の残したノートをもらう」
「何言ってるんだ!そんなの許すわけないだろ!」
「断ったらこの陽花戸中を破壊するけど」
「なっ…」
「簡単な話だよ、円堂くん。俺たちに勝てばいいだけなんだから」


俺たちの前で話が進められていく中、俺はゆい先輩から目が離せなかった。次第にたくさん溜まった疑問が爆発して、俺は円堂さんの横に立つ。突然前に出た俺に驚いたように円堂さんが此方を向いたけれど、今の俺はそれどころじゃなかった。


「どうしてですか、ゆい先輩!先輩は宇宙人だなんて、今まで一言も言わなかったじゃないですか!」
「立向居…くん…」
「ずっと…ずっと俺のこと、騙してたんですか…?」
「ち、違う…っ」
「今はそんなこと、関係ないだろう」


はっとした表情でゆい先輩が顔を上げたと同時、俺たちの会話を打ち切るようにグランが口を挟んだ。そちらへ目を向けると切れ長の深い緑色の眼が俺をじっと見据えていて、その視線から何処か威圧感のようなものを感じ取った。それも一瞬で俺から目を逸らすとそれも消えてしまい、彼は円堂さんに薄らと笑いかける。
そこでようやく気付いた。そうだ、きっとゆい先輩はあの宇宙人たちに騙されているだけなんだ。先輩が悪いわけじゃない、きっとそう。それなら俺が助けなければ。まだ一度もゆい先輩のことを助けられたことなんてなかった。今度こそ、今度こそ俺が。


「その勝負、俺が受けます!」
「た、立向居!?」
「俺たち陽花戸中サッカー部だって毎日特訓してきたんです!そうでしょう、みなさん!」


俺は後ろに立っていた先輩方へ視線を向けた。みなさんは暫く黙っていたけれど、戸田さんがにっと笑って大きく頷いた。それに続くようにみなさんも次々と頷いてくれる。


「そうだ、俺たちの学校は俺たちで守らないと!雷門中や立向居にだけ任せていられないぞ!」


学校も、ゆい先輩も守ってやるんだ。俺の手で。円堂さんは俺たちを見ると強く頷いて「分かった」とだけ返してくれた。それから強く前を見る。と、目の前の彼はじいっと俺に視線を注いでいた。


「ふうん…ちょうどよかった」
「え?」
「俺は構わないよ。準備運動くらいにはなりそうだからね」


大丈夫、きっと勝てる。なんたって円堂さんに直接特訓してもらったんだから。大きく自分にそう言い聞かせながら深呼吸をして、俺はぱちんと両頬を挟むように叩いた。
けれど、ゆい先輩の表情が変わる様子は、一向になかったんだ。





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