立向居連載 | ナノ










「今…なんて…?」


立向居くんの所から基地へと戻り、マネージャーとしてみんなの練習の後片付けをしている最中に彼自身から聞かされた言葉に私は一瞬頭の中が真っ白になった。


「陽花戸中に父さんに必要なものがあるんだ。それを取りに行くから、アリーシャも一緒に来て」


手が止まる。力の抜けた私の手からドリンクのボトルが落ちて地面に転がった。ああ拾わないと、そう思っているうちにグランがそれを広い、籠に入れてくれた。私に向ける笑顔は、いつもの彼そのもので。


「どうしたんだい、急にぼーっとして」
「え…あ…」
「考え事?」
「い、いや、その…取りに行くだけ、なんだよね?」


そうだ、彼は何も言っていない。ただその必要なものを貰って、それで終わり。それならおつかいのようなものだし、私と二人で行ってもおかしくはない。なんだ、そういう意味か、勝手に一人で納得して緩い笑みを浮かべようとした途端、グランは少し考えるような素振りを見せてから、私に笑いかけた。


「素直に渡してくれなかったら、それなりのことはするつもりだけど」


もちろん、サッカーでね。その言葉を聞いて、私は笑うことができなくなった。どうして彼は笑っていられるのだろう?いや、きっと私も他の学校なら彼の言葉にこうまでショックを受けなかっただろうし、一緒に笑えていたんだろう。けれど違う、そうじゃない。彼はだって、陽花戸中って言ったんだから。…けれど私に止める術などない、お父様の言葉なんだから。


「…わ、私は行かなくても、いいでしょ?」
「どうして?」
「だって選手じゃないし…」
「でも唯一のマネージャーだよ」
「み、みんなは怪我なんてしないし、マネージャーの仕事なんてそんなの、」
「ねえ、アリーシャ」


と、不意に周りの温度が急激に下がったような錯覚を覚えた。突然のことに私は言葉を失いグランをじっと見つめるしかない。ゆっくりと私へ視線を向けた彼は薄らと微笑んでいたけれど、その目は全くと言っていいほど笑ってなどいなかった。その時彼に初めて、恐怖というものを感じた。


「頼んでるわけじゃないんだ」
「グラ…ン…?」
「ザ・ジェネシスのキャプテンである俺からの命令なんだよ」


以前立向居くんが触れた私の頬にグランの手が触れる。それは立向居くんの手のような温もりなんてなくて、ただ冷たいだけだった。目の前の彼が今まで私と一緒に過ごしてきたのと同じ人だと思えず、けれど命令という言葉に逆らうことができない私は、震える唇を噛み締めてゆっくりと俯く。


「…わかり、ました」


私の中の何かが、崩れていくような気がした。




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