立向居連載 | ナノ











どうしてそうまでして隠し続けるのか、俺に言えないことは一体何なのか。中途半端なまま燻るその疑問に俺は何とも言えない気持ちになった。どうしても、知りたくなった。こんなことをするのはいいことじゃない、分かってる、それでも俺は気付けば彼女の後を気付かれないように、追いかけた。

辿りついた先は夕日が綺麗な場所だった。来たことがない場所だなあと思いながら辺りを見渡していると、アリーシャはとある学校に足を踏み入れる。此処にどんな用事があるのだろう、そう思いながらその学校の名前を確認した。陽花戸中学、そこは父さんの口から聞いたことがある名前だった。
不意に校舎の裏側に彼女が誰かと一緒に入っていくのを見かける。校舎の影に隠れてそこを覗くと、アリーシャと一緒にいたのは一人の男の子だった。知らない子だ、そう思いながら様子を窺っていると、突然男の子がアリーシャの肩を強く掴む。


「…あの後、何されたんですか」


あの後?一体何の話だろう。そう思いながら聞いていればどうやら頬の傷の話に関係しているらしい、心配そうに言う彼に対しアリーシャは大丈夫だと言い張った。大丈夫って、一体何が?どうして俺には転んだなんて嘘をついたんだ。俺には何も話してくれなかったのに、彼には全部、話していたということなのか。嫌な気持ちがもやもやと胸の内を支配していく。すると男の子がアリーシャの頬に優しく、触れた。


「前の傷が…残っちゃいました」


前の傷、やっぱり彼は知っているんだ、アリーシャが一体何をされたのか。転んだわけじゃなくて、誰かに何かされてできた傷なんだと。


「ゆい先輩、」


それ以上聞きたくなくて俺は咄嗟に駆け出した。もう、十分だ。何処に行くとか、そんなこと考えてもいなかった。とにかく走って校門を飛び出し、その学校を後にする。それからゆっくりスピードを落として、やがて立ち止まった。
俺が呼べない名前を糸も容易く呼んでいる彼。きっとあの男の子がアリーシャを傷つけたわけじゃないんだろう、それは分かる。分かるけれど、今のどうしようもない気持ちの矛先を何処に向けていいか分からない俺は、自然と彼に向けてしまっていた。何とも言えない嫌な気持ち。ずっと好きだった女の子が彼に逢いにきていたこととか、笑顔が増えた原因はきっと彼なんだろうとか、俺の知らないことを知っているとか、全てがぐるぐると回る。心の何処かで違う、そうじゃないと俺自身を非難する声がした。けれどもう止まらない。
そこでタイミングよく思い出した父さんの言葉を思い出し、俺は気付かないうちに自分の携帯を取り出した。この気持ちを向けるべき本当の相手は他にいるというのに、今の俺は嫌な感情で頭がいっぱいで、ただアリーシャに触れるあの男の子が憎くてたまらなかった。深く息を吐き出して、携帯を耳に当てる。


「…父さん?俺、ヒロトだよ。この前陽花戸中に父さんに必要なノートがあるって言ってたよね。あれ、俺のチームが行って取ってくるよ。…うん、気にしないで…父さんのためだから…」


通話終了のボタンを押した時の俺の表情は、酷く、歪んでいたことだろう。





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