立向居連載 | ナノ











「アリーシャとよく一緒にいるのはアンタだろ。なんでアイツを守ってやらねえんだ」


彼、バーンはそう言って俺を強く睨みつけた。訳が分からなかった。バーンからアリーシャの名前が出たことにも驚いたし、何より守らないという言葉に、衝撃を受けた。言葉を失い呆然とする俺を鼻で嘲笑って、バーンは言葉を続ける。


「何のことか分からないってか?どうりでアイツが思いつめた顔してやがったわけだ」
「…どういうことだい?」
「どういうことも何も、あんたはアリーシャの傷のこと、何とも思わなかったのかよ」


息を呑んだ。確か転んだと聞いたはずだ。女の子の顔に傷が残ってしまったということ自体あまり触れるべきではないのだと思っていたからあの日以来話題に出していなかったけれど、どうしてバーンがそれを出したのか。嫌な予感が、する。


「ま、何かあってもアリーシャは誰にも本当のことを言わないんだろうけどな」
「本当の、こと…」
「その様子じゃどうせ適当なこと言って誤魔化されたんだろ」
「じゃあ一体なにが?アリーシャはどうしてあんな傷を?」
「…さあな、知りたきゃ本人に聞けよ。ただ一つ俺から言えることは、」


そこまで言ってバーンは俺との距離を縮めた。至近距離から感じるバーンの視線は強く、そして怒りを含み鋭かった。俺の胸倉を力強く掴んで、低い声が耳に届く。


「あれは転んでできた傷じゃねえってことだけだ」


それから強く突き飛ばされてふらつく俺にさっさと背を向けて、バーンは扉の向こうへ姿を消した。残された俺は突き飛ばされたショックとかそんなのじゃなくて、彼の言葉が頭の中をぐるぐると回って呆然とするだけ。あの頬の傷が転んでできたものじゃないのなら、どうして彼女は俺に嘘をついたんだ?どうして何も言わないんだ?どうして笑えているんだ?どうしてずっと、耐えているんだ。


「…ゆい…」


決して基地の中で呼ぶことがなかった彼女の本当の名前を呟いて、俺は震えそうになる手のひらを握りしめてゆっくり一歩踏み出した。もう練習場に向かわなければならない。フィールドに行けばアリーシャにも逢えるだろう。彼女の口から真実を聞きたい。そうすれば俺は彼女の力になれるかもしれない。アリーシャの笑顔を、もっと増やせるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて。


けれど彼女は何も言わないまま、ぎこちない笑みを浮かべただけだった。





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