立向居連載 | ナノ












「随分勝手なことをしたんですね、アリーシャ」


暫く歩いた先、気付けば私は既に基地へと戻っていた。辺りには誰もいないし、ただ無機質な灰色の廊下がずっと続いているだけ。顔を上げるとそこにはにこにこと嫌な笑みを浮かべた研崎が立っていた。


「…何のこと、でしょう」
「覚えていないのですか。そんなはずないですよね。雷門イレブンに接触したこと。あの陽花戸中の生徒と密会していたこと」
「!」


どうしてこいつがそのことを。そう聞くにも私の今の立場からは聞けなかった。ぐっと唇を噛み締めて研崎を睨みつける。くつくつと喉の奥笑う感じがやけに苛立った。


「偶然ですか?」
「…」
「ちゃんと答えなさい」
「…申し訳ありません、でした」


ヒロトについて触れないのは、多分お父様のことがあってのことだろう。私は震える唇を抑えて頭を下げる。分かっている、此処での優先順位くらい。今までなら平然とできたことだけれど、今は何故か悔しいと感じてしまう自分が生まれていた。どうして、今になって。そうぐるぐる考えていると不意に骨ばった指先で強く顎を掴まれて無理矢理上を向かされる。痛みに小さく声が出た。


「あなたに自由などありませんよ、堕天使」
「…申し、訳…ありませんでし、た…!」
「勝手な行動は謹んでください。それから、旦那様の言葉は覚えていますね?」


背筋を冷たいものが走る。分かってる、覚えてる。此処以外に私が行くところなんてないことくらい。にんまり笑う研崎の顔がぐっと近づいて私の目の前でにやりと笑みを刻んだ。


「役立たずは…」
「…い、や…っ」


怖い、怖い、怖い。私の全てを恐怖が支配した。心臓がうるさく鳴って呼吸が荒くなる。続きは、聞きたくなかった。


「おい、通れねえんだけど」


びくりと肩が震える。すごく近くで然も不機嫌と言わんばかりの声色が響く。研崎の指先の力がすっと消えて私は解放された。じんじんと鈍い痛みが残っていて、口元を手で押さえる。視線を横に向けると其処にはバーンが立っていた。明るい色を灯す瞳は研崎を睨みつけていて、小さく舌打ちをする。


「これはこれは、失礼しました。少し野暮用で」
「どうでもいいが、廊下のど真ん中で立て込むのはやめろ。邪魔だ」


研崎は先刻とは違う笑みを浮かべ、手下を引き連れて灰色の廊下を歩いていってしまった。残された私は僅かに残る恐怖感を少しでも早く吐き出してしまおうと息を吐く。肩が未だに震えたままだった。


「…大丈夫かよ」


そう言って少し俯いたままの私の顔を覗き込んできたのはさっきとは違い気遣うような表情を浮かべたバーン。そうか、彼は助けてくれたのか。そう頭で理解するとゆっくり口角を持ち上げた。


「うん…大丈夫。ありがとう、バーン」
「別に。何か言われたのか、あいつに」


顔を背けながら言うバーンに返す言葉はなかった。何も言えない、口にすることさえ億劫。何も言わない私を不思議に思ったんだろうけど、バーンは「言いたくなきゃ構わねえけどな」とだけ言って私の肩を軽く叩いた。


「ま、無理すんなよ」


擦れ違う時に小さく言われた言葉は温かくて、私の心を満たしていった。コツコツと廊下に響く音だけが私の耳に残って、次第に安堵の息を吐く。私は色んな人に嫌われているけれど、色んな人に支えられている。そう思うと胸が軽くなった。
けれど立向居くんに逢うことは計画に支障が出るんだろうか。雷門イレブンに全く関係していない彼でも?でも彼に逢うのはいいことではないような気がする。


(それでも、あの笑顔が見たくなるんだ)




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