立向居連載 | ナノ









あの後デザームは3分で決着をつけると宣言し、ゲームを進めた。イプシロン対雷門イレブンの試合はこれまた圧倒的と言えるようなものだった。イプシロンの選手が確実に雷門イレブンを抜き、ゴールを決める。その力の差にほっと胸を撫で下ろした。エイリア石の力が負けていたわけではない、ただジェミニストームはエイリア石の力を最大限まで利用できていなかっただけなんだ。ちょうど試合から三分が経ちデザームたちはボールを投げて消えた。その凄まじい威力のボールから逃げる少年が一人。あのままだと直撃だろうなあと考えていたそんな時、偶然の産物なのかもしれないけれど、くるくると回転して少年がボールをカットした。すごいと感心していたそんな時、急にヒロトに腕を引かれる。


「行くよ、ゆい」
「えっ、でも、」
「早く」


強く引かれて特に抵抗する理由もなく、私はふらふらと引かれるままヒロトの後をついていった。その直後、背中の方に突き刺さるような視線を感じたけれど、その正体が何だったのか、私には分からないままだった。














「はい、これ」
「あ…ありがとう」


ヒロトに差し出されたココアを手に取って例を述べる。どういたしましてと笑う彼はどうやらサイダーを買ったらしい。漫遊寺中から少し離れたところの自動販売機で飲み物を買った私たちはその近くにあったベンチに腰掛けていた。気付けばもう日が暮れて辺りも暗くなっている。ココアの甘さにほうっと息を吐いた。


「面白かっただろう、今日の試合」
「うん…まあね。悪くなかった」
「そう。ゆいをつれてきてよかったよ」


そういう彼はと言うと手にした缶に口を付けることもなくじっと地面を見つめている。何処か心此処にあらずといった状態のヒロトに思わず首を傾げて問い掛けた。


「どうしたの?何か気になることがあるとか?」
「え…ああ、うん、なんでもないよ。ちょっとね」
「ちょっと…何?」


そう言われると気になるじゃないか。じいっと彼を見つめているとヒロトは「まいったなあ」と苦笑を零した。まいったも何も気になるような言い方をしたのは彼だというのに。


「円堂くん、覚えてる?」
「…あのオレンジのバンダナの…キャプテン、だっけ」
「うん。面白いなあと思って」
「…接触しないって言ったよね」


ヒロトの意図が掴めて思わず頬を引き攣らせた。対する彼は悪びれもせずににっこり笑いながら「チームにはね」と言う。屁理屈だ、そう思った。


「ほら、もう夜だし。他に誰もいないよ、大丈夫」
「でも勝手なことしたら…」
「いいからいいから、ほら、行くよ」


まだ全て飲み終わってないココアを残して私はヒロトに腕を引かれる。こんなに嬉々とした表情をしたヒロトを見るのは久しぶりだなあと思いながら、でも彼がいいならいいかと思った。小さく息を吐いて、私たちはまた漫遊寺中へと向かう。














漫遊寺中のグラウンドで一人頭を抱えていたのは幸運にも円堂守だった。周りには誰もいないし、他のメンバーはキャラバンの近くに居るんだろう。ヒロトに腕を引かれるまま私と彼は円堂くんの背後からゆっくり近寄る。じゃり、と砂の音が響いて、円堂くんが振り向いた。


「君たち、すごいな。宇宙人とサッカーしてるなんてさ」


ヒロトが自然とそう言った。知らなかった、彼は演技派だったのか。円堂くんはにこにこと嬉しそうに笑っている。漫遊寺中の生徒かと聞かれたけれど、もちろんながらヒロトは否定した。私はとりあえず黙っていた方がよさそうだ。そう思って俯いた時だった。


「もしかして俺たちのこと応援してくれてたのかな?」
「うん、この子が君たちのファンでさ。どうしても近くで応援したいって」
「え」


繋いでいた手を引かれてヒロトより一歩前に足を出す。突然のことに頭が追いつかない私を円堂くんは更にキラキラとした笑みで見つめた。私が雷門イレブンのファン?冗談じゃない!頭でようやく理解できて恨めしげにヒロトに視線を向けたけれど、彼は然も愉快そうに笑っていた。人事だと思って、よくも。


「応援してくれてありがとな!ファンとか、ちょっと照れるけど」
「えっ、あ…ああ、うん…これからも頑張って、ね」
「おう!サンキュー。えっと…」
「ああ、俺は基山ヒロト。彼女は藤城ゆいって言うんだ」
「そっか。俺は円堂守!今回は負けちゃったけど…次の試合は藤城とヒロトのためにも絶対勝つから、また応援してくれよな!」


おめでたい人だ、心の奥底で冷たくそう思った。私とヒロトのために勝つ?それなら私たちのことを思ってさっさと負けていただきたい。はっきり言ってやりたかったけれど此処で私が何か問題を起こせば支障が出るのは目に見えている。現に今こうして円堂くんと接触しているだけでも支障が出ているかもしれないのに、これ以上亀裂を走らせるのは如何なものかと考え、無理矢理口角を上げた。
円堂くんはヒロトに向かってボールを蹴る。けれど彼はそれを返すことなく、ボールを取りに言った円堂くんの背中に「じゃあね」とだけ告げて私の腕を引いた。それなりに夜も遅くなってしまった、もう帰らないと。

そういえば円堂くんの笑顔がなんとなく見覚えのあるような気がしたなあとぼんやり考えながら、私は一歩足を踏み出した。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -