立向居連載 | ナノ









私は今、グランと二人で京都に来ている。ここに来る前にいくつか彼に約束させられたことがある。それは私たちがエイリア学園の人物であることを、必ず伏せること。


「今の俺は基山ヒロト。だからアリーシャ、俺のことはヒロトって呼んで。それから俺も君のことを本名で呼ばせてもらうけど…いいかな」
「うん、大丈夫。私の名前は、」
「藤城ゆい。大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」


最近はずっとアリーシャって呼んでたけどね。そう言って笑うグラン…基、ヒロト。まさか私の名前を覚えていてくれたとは思わず、なんだか気恥ずかしかった。覚えていてくれてありがとう、そんな思いを込めて口角を上げる。


「そういえば、どうして京都に?」
「此処に雷門イレブンが来てるんだ」
「…え、」


言葉を失わずにはいられなかった。どうしてヒロトは雷門イレブンのところに?雷門のメンバーがジェミニストームを倒したのに、その彼らに接触しても計画に支障は出ないんだろうか。小さな疑問を抱いた。


「ああ、直接話しかけに行くわけじゃないよ。面白いものを見に来ただけ」
「面白いもの…?」
「多分、イプシロンと雷門イレブンの試合を見ることができるから」
「!」
「面白そうだよね」


普段は立てられている赤い髪が今は下りていて風に靡いている。京都の漫遊寺中の校舎の端に立っている私たちは他の人からは見えない位置にいるんだろう、誰にも気付かれることなく会話を交わしていた。雷門イレブンとの試合が見れる、ヒロトはそう言っているけれど、今グラウンドには誰一人としていない。どうして試合が見れるだなんて分かるんだろう、そう思っていた矢先のこと。紫色の光が辺りを支配して、イプシロンが現れた。その前には雷門イレブンではなく漫遊寺中のサッカー部であろうメンバーが立っている。そしてフィールドの外には、雷門イレブンの姿も。


「あれがジェミニストームを倒した…」
「そう、雷門イレブンだよ。ゆいは見たことなかったかな」
「名前しか知らない」


ジェミニストームのみんなを、レーゼたちを倒した。彼らの所為でレーゼたちは処分されてしまったんだ。そう思うと憎いと思わずには居られなかった。自分でも気付かないうちに手を強く握り締める。手のひらに爪が食い込んだ。じっと其方へ視線を向けていれば何時の間にか始まったイプシロン対漫遊中の試合。圧倒的な実力の差で試合は進められていく。


「この試合は面白くないな」


隣でヒロトが小さくそう呟いた。でも私は嬉しかった、エイリア石の力はやっぱりすごいんだって分かったから。その強さが欲しいと思うくらいに。途中で飽きてしまったのか、ヒロトは欠伸をしながら私の方へ視線を向ける。それからにっこりと微笑んだ。


「そういえばさ、ゆい」
「なに?」
「これってデートみたいだね」
「…え?」


突然の彼の言葉にぽかんとする以外どうしようもなかった。目が点になる。私とヒロトがデート?


「…な、なんでそうなるの!ただ試合見に来ただけでしょ」
「ごめんごめん、冗談だよ」
「からかわないでよね」


くすくすと楽しそうに笑うヒロトに対し少なからず頬が赤くなる私。慌てて反論してしまったからそこもまた恥ずかしい。居た堪れない気持ちになって彼から目を背けた。するとデザームの宣言通り6分後、漫遊寺中サッカー部が全員フィールドに倒れた状態で試合は終了していた。イプシロンのメンバーの表情に疲れは全く見えない。


「ほ、ほら、終わったよ!」
「うん、じゃあこれからだ」
「これからって…」


ヒロトの言葉を理解し損ねているとオレンジ色のバンダナをつけた男の子がデザームに試合を申し込んだ。本当にヒロトが言った通り、雷門中対イプシロンの試合を見ることができるようだ。ちらりと隣に視線を遣るとヒロトは楽しそうに口角を上げている。


「…どうしてこうなるって分かったの?」
「勘かな」
「勘って…」
「俺の勘、よく当たるんだ」


すごいよね。そう言って私を見るヒロトに私は苦笑を浮かべるしかなかった。小さな男の子が雷門中のユニフォームに着替えている。さあ、これからがメインイベントだ。イプシロンに雷門イレブンが勝てるはずないけれど。そう思いながら私はフィールドへと視線を戻した。





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