立向居連載 | ナノ









私はあれから、立向居くんに逢いにいってない。逢いたくなくなったとかじゃなくて、心に少し余裕がなくなったからだ。少しでもみんなの役に立ちたい、立たなければならない。そんな思いが私を突き動かしていた。
今日もマネージャーとして仕事をこなす。私は大抵ガイアの練習時間に仕事をしているんだけど、プロミネンスやダイアモンドダストももちろんマスターランクなわけだから、ちゃんとマネージャーとしての仕事はしている。ただお日さま園からずっとこうだったんだけど、私はグランと仲がよかった。一緒にいて落ち着く、そんな大切な友達。だから此処ではよくグランと一緒にいるようにしていた。
真っ白いタオルを持って、手で汗を拭っているグランに近づく。今は必殺技の練習中なんだとか。


「グラン、これ使っていいよ」
「ああ…ありがとう、アリーシャ。助かるよ」
「もう結構な時間練習してるし、そろそろ終わった方がいいんじゃないかな」
「うん…でもまだ技が完成してないし」
「練習で無理したら本当に大切な時に動けなくなっちゃうかもしれないんだからさ、休んだ方がいいって」
「…」


少し強く言うとグランは考えるような素振りを見せた。タオルを差し出しながらその様子を窺っていると小さく苦笑を浮かべた彼は「そうだね」とだけ言って私の手からタオルを取った。


「みんな、今日は此処までにしよう」


グランの声が響いてみんなの動きが止まった。それからぞろぞろとベンチの方へ向かってくる彼らにドリンクやらタオルやらを配っていく。今日は普段よりハードな練習だったと思いながらガイアのメンバー1人1人に声を掛けた。「お疲れ様」とか「ゆっくり休んで」とか。全員に配り終えてからグランの所にまた近寄ると、彼はタオルに顔を埋めながら「アリーシャ」と私の名前を呼んだ。


「今から時間、あるかな」
「今から?…うん、ダイアモンドダストもプロミネンスも練習入ってないし、空いてるよ」
「よかった、それじゃあ俺と一緒に少し出掛けようよ」
「えっ」


突然の誘いに驚く私と柔らかい笑みを浮かべるグラン。そういえば前に誘ってくれてたなと思い返しながら父さんのことは大丈夫なのか、などと考えを巡らせる。


「父さんのことなら気にしなくていいから」
「…グランについて行ってもいいのかな」
「勿論だよ、むしろ俺がアリーシャと一緒に行きたいんだ。駄目かな?」
「だ、駄目なわけない!…グランがいいなら、是非」
「うん、じゃあ行こうか。着替えてくるから少し待っていてくれるかい?」


こく、こく。二度頭を縦に振るとグランは嬉しそうに笑ってくれた。練習場から出て行く彼の背中を見つめながら、私も準備してしまおうと後片付けを始めた。そういえば何処に行くのか聞きそびれたけれど、何処に行くつもりなんだろう。そう思ってタオルを入れていた箱を両手で持ち上げた。






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