短編 | ナノ









世間一般的に、彼女のような人間のことを非現実的だと言うのだろう。


「ねえ一之瀬!もし、もしもだよ、」
「うん」
「空を飛べたら、どうする?」


今日も彼女は目を輝かせながら俺に話しかけてきた。彼女は「もしも」の話が大好きだ。そうだな、と考えながら口元に緩い笑みを浮かべ、俺は口を開く。


「世界中を旅してみたい。自分の力で何処へでも行けるならね」
「そうだね、それもよさそう!それじゃあね、もしも、もしもだよ?」
「うん」
「この世が明日で終わりだとしたら、どうする?」


これは、また。普段と違う種類の「もしも」の話に俺は思わず目を丸くした。俺の答えを待つように口を閉ざす彼女の瞳は何処か真剣で、俺は少し考え込んだ。もしも明日で世界が終わるなら、終わるなら?


「世界が終わるなら、ね」
「ん」
「明日で世界が終わらない方法を探しに行くよ」


今度は彼女が目を丸くした。それから少しずつ表情が緩んで、にっこりと優しい笑みを浮かべる。俺は非現実的な彼女の、何処か非現実的なその笑顔が、好きだった。


「一之瀬は相変わらず、偽善者だね」
「そう言って笑う君もね」


もしも俺と彼女が偽善者だったらっていう、おはなし。
(本当は、偽善者ですらなかったんだけれど、)



100528/もしものはなし

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