霧となって消え去った


「ご機嫌よう、レギュラス」

 図書室で会ってから約7ヶ月後――ホグワーツ特急の中で彼女は突然僕の前に現れた。この7ヶ月もの間、僕の前に髪の毛一本たりとも姿を見せなかったにもかかわらず、彼女は瞬きをするほんの僅かな間に僕の向かいの席に座っていた。

「また例の異世界からやってきたんですか?」

 溜息をつきながら皮肉混じりにそう言うと、僕はコンパートメントの通路側のカーテンを閉め切った。なんとなく、彼女と一緒にいられるところを見られるとまずいと思ったのだ。

「ええ、そうなの」

 そんな僕の考えなど露知らず、彼女はニコニコ笑って答えた。相変わらず、毒気のない笑顔で笑っている。暢気なものだ。

「寝言は寝て言うものですよ」
「あら、寝言じゃないわ。私ね、夜眠りにつくとこちらの世界に来ることが出来るの」
「ではなぜ、貴方はホグワーツに詳しいんですか? 嘘をつくのならもう少し上手につかないと」

 違う世界の人間が、ホグワーツの制服を着て、ホグワーツに詳しいわけがない。僕は呆れた視線を彼女に向けたが、彼女の話していることがもしかしたら嘘ではないかもしれないとどこかで感じ始めていた。なぜなら、彼女はいつも突然目の前に現れるからだ。

「うーん、あのね」

 僕の言葉に彼女は少しだけ唸った。どう説明すればいいのか迷っているようだった。そして、

「この世界に関する本があるの。今より未来のことが書かれてある物語で――でも、この時代のことも少し描かれているわ。だから、私はこの世界のことを知っているの」

 そう話した途端、彼女は僕の目の前から霧となって消え去ったのだった。


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