リーマスと夜空の花火


 イギリスでは、お正月よりもクリスマスの方が圧倒的に賑やかだ。けれども、だからといって年末年始に何もないわけではなく、ロンドンでは、毎年テムズ川でカウントダウンの花火が打ち上げられる。新年の訪れを告げるビッグベンの鐘の音が鳴り響くのと共に、夜空に鮮やかな花火が何発も打ち上げられるのだ。

「う、わあ、花火を上から見られるなんて!」

 自分の足元で花開く花火を見て私は声を上げた。大きな打ち上げ音がお腹の底に響き、微かな火薬の臭いが鼻腔を擽っている。花火が打ち上げられたあとの白い煙が風に乗って漂い、それを避けるように私を後ろに乗せてくれた箒の操縦者が器用に箒の柄を操作して、方向転換した。

「ハナ、落ちないように気をつけて。私はジェームズほど箒の扱いは上手くない」

 下を覗き込む私に操縦者であるリーマスが言った。

「もし落ちたりしたら魔法省に大目玉だ」
「忘却術士が記憶を修正するのが大変そうね」
「アメリカでは過去に大規模なマグルの記憶の修正を行わなければならなかった時、サンダーバードを使ったそうだ」
「サンダーバード! アメリカの乾燥地帯に住む魔法生物ね。でも、サンダーバードで一体どうやって記憶を修正したの?」
「サンダーバードが飛翔する時、嵐を呼ぶのは知ってるかい?」

 花火の真上を縫うように飛びながらリーマスが言った。

「ええ、知ってるわ」
「その嵐に利用したんだ。雨に忘れ薬を混ぜたんだよ」
「わあ、すごい。サンダーバードって、イギリスにはいないのかしら?」
「さあ、どうだろうな――ただ、サンダーバードが見たいからってわざと箒から落ちないでくれよ」
「落ちないわ。信用ないのね」
「君はお転婆だからね」

 リーマスがおかしそうにクツクツと喉を鳴らして笑った。足元でまた一輪花火が打ち上がり、新年の訪れを告げた。


このお話は2024年元日にお年賀として公開したものに加筆を行ったものです。皆さまが、よい1年を過ごせますように。


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