道路脇に見覚えのある白のRX-7


 失踪した水町波奈の捜索に正式に安室透が加わってから、1週間が経過した。この1週間の間に分かったことといえば、水町波奈は確かにゴールデンウィークの間に確かにヒースロー空港行きの国際線に搭乗したということくらいなものだった。安室が密かに手を回して調べてくれ、出国状況を確認出来たのである。

 これにより水町波奈はイギリス国内で失踪した可能性か強まったが、この事実に依頼を受けた張本人である毛利小五郎は完全にお手上げ状態であった。国内で失踪したならまだしも国外となると簡単にはいかないだろうというのは容易に想像出来ることだった。

「国外だったら外務省に所在調査を依頼出来るはずだけど、親族がいないと難しいのかしら」

 人生2度目となる小学校からの帰り道、水町波奈に関する最近の状況をコナンから聞かされた哀は言った。コナンと哀の少し前では、少年探偵団の3人組が何やら楽しげに話しながら歩いている。

「あれは原則、配偶者か三親等以内の親族ってことになってるからな。あとは確実に誰も連絡が取れないって分からないと引き受けて貰えないし、そもそも依頼には戸籍が必要だったはずなんだよな」
「親族のいない水町さんの所在調査を外務省に依頼するのは少々厄介ってことね――」
「ああ。警察もお手上げ状態らしいし、おっちゃんのところに来た時には相当切羽詰まってたんだと思うぜ」

 コナンは依頼人の女性が毛利探偵事務所へやってきた日のことを思い出しながらそう話した。憔悴しきっていて、涙ぐんでいたところを見るに、ずっと手掛かりを探していたのだろう。

「これでイギリス国内にもいないとなると、ますますあの本の中に吸い込まれたことを認めざるを得ないわね」

 哀がそう言って、コナンはずっと頭の隅に追いやっていた非科学的な仮説のことを思い出して溜息をついた。依頼人の女性から借りたハリー・ポッターの本の中にだけ、存在しないはずの「ハナ・ミズマチ」というキャラクターが出てくるというのはコナンがその目で見て確認した紛れもない事実であったが、コナンにしてみれば「本に吸い込まれた」というのは信じたくない話であった。そんなことあってたまるか。何かトリックがあるはずだ、というのがコナンが悩みに悩んで出した結論である。

「この世界中のどこにも水町さんがいないって証明出来ないことにはその仮説が正しいかどうかなんて分からないだろ? ただ、あの本が素人が用意したものとは思えねぇんだよな」
「本はあれから読んでるの?」
「いや、一旦保留だ。まずは水町さんの足取りを正確に追わないことには始まらないからな。今はヒースロー空港に到着したあとの足取りを追ってるところなんだ」

 その時、道路脇に見覚えのある白のRX-7が停車してコナンは足を止めた。助手席の窓がゆっくりと開いて、そこから運転席に座っている安室が顔を覗かせた。グレーのスーツに身を包んでいるところからするに、今日は降谷零として働いてきたらしい。

「コナン君、水町さんの足取りが分かった」

 その言葉にハッとしてコナンは安室の車に駆け寄った。助手席から手を伸ばして安室がドアを開けてくれ「ここじゃゆっくり話せないなら乗って」と言われるとコナンは先程まで隣にいた哀を見たが、そこには既に哀の姿はなく、彼女は少年探偵団の3人と一緒に随分先を歩いていた。後ろ手にヒラリと手を振っているところを見るに、どうやら安室と一緒に行ってしまっても大丈夫なようである。

「分かった。一緒に行くよ」

 コナンが助手席に乗ると、やがてRX-7はその場から走り去った。


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