同姓同名のキャラクター


「おいおい、どういうことだよ……」

 この物語には同姓同名のキャラクターが存在しているのだろうか。コナンは指先で文章をなぞりながら突然物語の中に現れた失踪中の女性、水町波奈と同姓同名のキャラクター「ハナ・ミズマチ」に関する記述を拾い上げていった。

「太陽の光に当たると茶色く透けてキラキラと輝く長い黒髪に明るいヘーゼルの瞳、肌はまるで白磁のように色白で、どこかアジア系を思わせる顔立ち――そっくりそのまま水町波奈の特徴と一緒じゃねぇか」

 これはただの偶然にしては特徴が一致し過ぎている。コナンは顔を上げると、「おい、灰原!」と離れた場所で優雅に珈琲を飲んでいる哀を呼んだ。コナンに呼ばれた哀は溜息混じりに立ち上がると、面倒臭そうな表情を隠しもせず、コナンの元へとやってきた。

「帰ってきてすぐ読み始めたと思ったらブツブツ呟いて……一体何?」
「いいから、ここ見てくれよ。ほら」

 コナンがそう言って哀に『賢者の石』を押し付けると、先程読んでいたページを指差した。「ハナ・ミズマチ」がハリーに自己紹介をするシーンである。哀は面倒臭そうに本に視線を落とし読み始めたが、コナンが示した箇所を読むと、途端に顔つきが変わった。

「一体どういうことかしら? 同姓同名で、特徴も一緒……でも、主人公のハリーと仲の良いキャラクターにはアジア系はいなかったはずよ。ちょっと待って、調べてみるわ」

 哀はそう言うと自身のスマートフォンで「ハナ・ミズマチ」というキャラクターについて調べ始めた。検索バーに「ハナ・ミズマチ ハリー・ポッター」と入力し、検索ボタンを押す。しかし、

「出て来ないわね……」

 ハリー・ポッターに「ハナ・ミズマチ」というキャラクターがいるなどという検索結果は一件も表示されなかった。つまり、実際にはそういうキャラクターは存在しないということになる。

 じゃあ、今目の前にあるこの本はなんだ? コナンはまじまじと借りてきたばかりの本を見つめた。目の前にあるこの本の中では、確かに「ハナ・ミズマチ」がハリーとコンパートメントを一緒になり、話をしているのだ。それとも、「ハナ・ミズマチ」というのは記録に残らないほどのキャラクターなのだろうか? 物語の最初の方に登場し、こんなにも主人公と話をしているのに?

「工藤君、これを見て。今、ハリー・ポッターの電子書籍を1冊買ってみたの――そしたら、ほら」

 コナンが考え込んでいると、引き続き調べ物をしていた哀がスマートフォンの画面をコナンに向けながら言った。そこには今まさにコナンが開いている賢者の石と同じページが表示されている。それ見て、コナンは大きく目を開いた。

「一体どういうことだ?」

 コナンは混乱する頭を抱えて言った。哀が購入したというハリー・ポッターの電子書籍には、「ハナ・ミズマチ」なんていうキャラクターは存在しなかったのだ。ハリーは誰もいないコンパートメントに乗り、その後やってきたロンと2人きりでホグワーツまで向かうのだ。

「どういうことも何も目の前にあるこの事実が唯一の真実なのよ、工藤君」

 哀が真剣な眼差しで言った。

「本の中に吸い込まれたとでもいうのか? 過去や未来の時空を移動することすら不可能な世界で、本の中に? どういう理論だよ」
「魔法、とか」
「はあ!? 魔法なんて存在するわけねぇじゃねーか」
「じゃあ、一体これをどう説明するのよ。この依頼人の女性から借りた本の中にだけ、失踪した女性が出てくるのよ。科学じゃ証明出来ないわ」

 そんなこと有り得るのだろうか? 魔法だなんて何の科学的根拠もないものの影響で本の中に吸い込まれるなんてことが。コナンはもう一度借りてきた本を見つめた。見つめて、見つめて、そして――。

「だー! わかっかんねぇ!」

 髪をガシガシ掻き乱して叫んだのだった。


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