Phantoms of the past - 027

3. ダイアゴン横丁の大乱闘



 夜の闇ノクターン横丁から出てきたハリーはどうやら迷子になっていたらしかった。初めての煙突飛行だったので、戸惑ったのだろう。行き先をきちんと言えずに夜の闇ノクターン横丁に出てしまい、出口を探して彷徨っていたのだそうだ。

 ダイアゴン横丁を大慌てで走ってきたウィーズリー一家は、グリンゴッツの前にハリーがいるのを見つけると「良かった……」と言って胸を撫で下ろしていた。ウィーズリーおばさんは半狂乱になっていたらしく、ハリーを見つけてくれたハグリッドの手を握って何度も感謝を伝えていた。

 そうして無事に全員が揃い、ハグリッドと別れたあとは、まず、グリンゴッツでお金を下ろすことになった。そこでハリーは夜の闇ノクターン横丁にある「ボージン・アンド・バークス」という店にマルフォイ父子が現れた話を聞かせてくれた。その店でルシウス・マルフォイは何かを売っていたらしく、ウィーズリーおじさんは抜き打ち調査が心配になったのだと満足気だった。どうやら、ウィーズリーおじさんとルシウス・マルフォイは犬猿の仲らしい。

「1時間後にみんなフローリシュ・アンド・ブロッツ書店で落ち合いましょう。教科書を買わなくちゃ」

 グリンゴッツでお金を下ろしたあとは、1時間だけそれぞれ思い思いに過ごすことになった。するとフレッドとジョージは同じグリフィンドールのリー・ジョーダンを見つけてすぐに遊びに出掛けてしまい、ウィーズリーおじさんもここぞとばかりにグレンジャー夫妻を漏れ鍋に誘い始めた。パーシーも1人で見たいものがあると言って行ってしまい、ジニーは1年生になるのでこれからウィーズリーおばさんと制服を買いに行くと話した。

 私はというと、ハリーやロン、ハーマイオニーと共にダイアゴン横丁を散策することになった。なんと、ハリーが全員分のアイスを買ってくれて、私達はみんな苺とピーナッツバターの大きなアイスクリームを舐めながらウィンドウ・ショッピングをした。

 「高級クィディッチ用具店」では、ロンが大ファンであるチャドリー・キャノンズのユニフォームを見つけて動かなくなってしまった。その上ハリーも一緒になって見始めたので、隣の店でインクと羊皮紙を買うのにハーマイオニーがハリーとロンを無理矢理引き摺って行かなければならなかった。

 「ギャンボル・アンド・ジェイプス悪戯専門店」では、フレッドとジョージ、それにリーと出会った。彼らは「ドクター・フィリバスターの長々花火――火なしで火がつくヒヤヒヤ花火」を買いだめしているところで、「ウィーズリーおばさんに没収されないようにね」と私が言うと、フレッドとジョージは顔を突き合わせてどのくらいの量なら没収されないかを真剣に相談し合っていた。

 小さな雑貨店には、パーシーがいた。パーシーはそこで『権力を手にした監督生たち』という本を読んでいて、その裏表紙には「ホグワーツの監督生たちと卒業後の出世の研究」と書かれていた。ロン曰く、パーシーは向上心が人一倍あって、将来は魔法省大臣になりたいらしい。

 1時間が経つと、私達はウィーズリーおばさんに言われた通り、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へと向かった。どういう訳か書店はびっくりするほどの人集りで、どの人も店の奥へと進もうと押し合いへし合いしている。

 一体何があったのだろうと思っていると、意外にもその理由はすぐに分かった。「サイン会 ギルデロイ・ロックハート」と書かれた大きな横断幕が書店の上階の窓に掛かっていたからだ。ギルデロイ・ロックハートといえば何冊も新しい教科書に指定された人物である。どんな人なんだろう、と思いながら横断幕を見上げていると、

「本物の彼に会えるわ!」

 とハーマイオニーが黄色い声を上げて、私は驚いて彼女を見た。見れば、私と同じ顔でハリーとロンも彼女のことを見ている。そんな私達に彼女は「だって、彼って、リストにある教科書をほとんど全部書いてるじゃない!」と嬉しそうに話した。もしかしたら、ハーマイオニーがこの日にダイアゴン横丁に行くと話したのは、ギルデロイ・ロックハートのサイン会があると知っていたからなのかもしれない。

 ギルデロイ・ロックハートにサインを求める列は、店の奥まで続いていた。ほとんどがウィーズリーおばさんと同じくらいの年代の魔女で、まるで少女のような表情をしながら本を握り締めて自分の順番を待っている。

 ウィーズリーおばさんとグレンジャー夫妻もその列の真ん中辺りに並んでいた。どうやらウィーズリーおばさんもギルデロイ・ロックハートのファンのようで、私達が人混みを掻き分けてウィーズリーおばさんの元へ行くと「もうすぐ彼に会えるわ……」と先程のハーマイオニーと同じようなことを言っていた。

 初めはあまりの人の多さにギルデロイ・ロックハートの頭すら見えていなかったけれど、少しずつ列が進み前の方になってくると、ようやくその姿を見ることが出来た。しかし、それが意外な人物で、私は思わず「あ!」と声を上げた。

「あの人がギルデロイ・ロックハートだったの!?」

 なんと、そこにいたのは、漏れ鍋で私にウインクをしてきた勿忘草色のローブの魔法使いだったのだ。