Phantoms of the past - 025

3. ダイアゴン横丁の大乱闘

――Harry――



 ボージン氏の店の外は胡散臭い横丁だった。闇の魔術に関する物しか売っていないような店が軒を連ねていて、今ハリーが出てきた「ボージン・アンド・バークス」という店が一番大きな店らしかった。

 ボージン・アンド・バークスの向かいの店のショーウィンドーには、気味の悪い縮んだ生首が飾られ、2軒先には大きな檻があって、巨大な黒蜘蛛が何匹もガサゴソしていた。みすぼらしいなりの魔法使いが2人、店の入口の薄暗がりの中からハリーをじっと見て、互いに何やらボソボソ話している。

 ハリーはゾワッとして、先程まで頭を占めていたハナのことを急いで頭の隅に追いやると、慌ててその場から離れた。なんとかここから出る道を見つけなければと、藁にも縋る思いで歩く。

 出口は分からなかったが、歩いている途中で、この通りがなんて名前なのかは知ることが出来た。「夜の闇ノクターン横丁」という看板が毒蝋燭の店の軒先にかかっていたからだ。

 けれど、聞いたこともない場所だったので、ハリーにとっては何のヒントにもならなかった。ウィーズリー家の暖炉の炎の中で、口一杯に灰を吸い込んだままで発音したので、きちんと通りの名前を言えなかったのだろう。落ち着け、と自分に言い聞かせながら、ハリーはどうしらいいか必死に考えた。すると、

「坊や、迷子になったんじゃなかろうね?」

 すぐ耳元で声がして、ハリーは飛び上がった。振り向けばそこには、盆を持った老婆がハリーのすぐそばに立っていた。盆の上には気味の悪い人間の生爪のようなものが積まれている。

「いえ、大丈夫です。ただ――」

 ハリーは恐ろしくなって後退った。目の前の老婆は、ハリーを横目で見ながら黄色い歯を剥き出しにしている。そこに、助けが現れた。

「ハリー!」

 ハグリッドだった。ハリーは心が躍って、老婆はハグリッドの大きさに飛び上がって驚いた。ハグリッドはすぐに悪態をつく老婆からハリーを引き離してくれ、ハリーはやっとひと心地つくことが出来た。

「お前さん、こんなとこで何しちょるんか?」
「僕、迷子になって……煙突飛行粉フルーパウダーが……」

 胡散臭いくねくねとした通りをズンズン歩いていくハグリッドにハリーはついて行った。ハグリッドがどこへ向かっているのか分からなかったが、薄暗く気味が悪かった通りは少しずつ明るくなり先が見えるようになると、ようやく行き先を知ることが出来た。通りの向こうに見知った純白の大理石の建物――グリンゴッツ魔法銀行が小さく見えたからだ。まだ少し距離はあるが、これでウィーズリー家のみんなともすぐに合流出来るだろう。

 ハグリッドは「肉食ナメクジの駆除剤」を探して、この夜の闇ノクターン横丁を歩いていたとハリーに話した。どうやら学校のキャベツを食い荒らしているらしい。肉食ナメクジの粘液は皮膚を腐食させるそうで、専用の駆除剤が必要なのだという。

 それからハリーはウィーズリー家に世話になっていること、手紙の返事を書けなかった理由――ドビーのことやダーズリー一家が何をしたのかを、ハグリッドに話して聞かせた。ハグリッドはダーズリー一家の話を聞くと「腐れマグルめ」と吐き捨てるように言った。

 そうして話をしているうちにハリーの中に余裕が戻ってくると、急に頭の隅に追いやっていたレイブンクローの幽霊のことが気になり始めた。ハグリッドなら知っているだろうか? だって、森番としてずーっとホグワーツにいるんだし……。しかし、

「ねえ、ハグリッドはレイブンクローの幽霊って――」

 ハリーは最後まで質問をすることが出来なかった。遂に目の前に迫って来たグリンゴッツの入口から、誰かがハリーとハグリッドを呼んだからだ。

「ハリー! ハグリッド!」

 驚いた顔をしたハナがそこに立っていた。