Phantoms of the past - 020

2. ハリー救出大作戦



 ウィーズリーおばさんは今まで見たことがないくらい怒り狂っていた。ロンもフレッドもジョージも、おばさんより背が高いのにみんな縮こまって小さく見えたし、私もハリーも申し訳なくて、彼らと一緒になって縮こまった。

 けれどもウィーズリーおばさんは、私とハリーには怒っていなかった。おばさんは私に「貴方がメモを残しておいてくれて助かったわ。無事に連れて帰って来てくれてありがとう」と丁寧にお礼を述べたし、それからハリーに向き直って――ハリーは後退りしていた――「まあ、ハリー、よく来てくださったわねえ。家へ入って、朝食をどうぞ」と歓迎してくれた。

 私も朝食に誘われたけれど、家でリーマスが待っていてくれているので、丁寧に断りを入れた。それから、煙突飛行粉フルーパウダーをひとつまみ貰って、煙突飛行で帰ることになったのだけれど、ハリーは私がウィーズリー家に泊まっていたわけではないと知って驚くのと同時に、とても残念そうな顔をしていた。

「ハナ、おかえり」

 怒られてすっかり大人しくなっているウィーズリー3兄弟と戸惑っているハリーに「また会いに来るわ」と別れの言葉を言ってから、煙突飛行でメアリルボーンの自宅へ帰ると、リビングでリーマスが出迎えてくれた。リーマスは私の顔を見るなりホッとしたような表情をして、「上手くいったようだね」と言った。

「ただいま、リーマス。ロキを飛ばしてくれて、ありがとう。とっても助かったわ」
「間に合ったようで良かったよ。朝食の準備が出来ているから食べながら、夜のことを聞かせてくれるかい?」
「ええ、もちろん。話したいことがたくさんあるの」

 私はリーマスと一緒にダイニングで朝食を食べながら、夜の出来事を話して聞かせた。ハリーは無事だったけれど、ダーズリー家に監禁されていて、満足に食事を出されていなかったと話すとリーマスも「信じられない」と怒っていたが、私が説教をしたと聞くと「君が暴れ回らなかっただけ良かった」とホッとしていた。彼は私がハリーのこととなると理性がなくなると思っている節があるようだ。間違っていないけれど……。

 それから、ドビーのことについても話をした。ドビーについてはリーマスもフレッドやジョージと同じような意見で、「ハリーに対しての悪質な嫌がらせかもしれない」と話していた。やっぱりリーマスも屋敷しもべ妖精ハウス・エルフが主人に黙って勝手に行動するのは考え難い、と考えているようだった。

「ハナは何か知っていることはないのかい? 1年生の時はある程度は分かっていたんだろう?」
「私、知っているのは1年生の時までなの。これから先のことはほとんど分からないわ。ただ、今年度は『秘密の部屋』に関わる、としか」
「秘密の部屋だって?」

 私の言葉にリーマスは怪訝な顔をした。その表情はまるで「そんな部屋の名前が出てくるとは思わなかった」とでも言いたげだ。思い切って私が「秘密の部屋ってどんな部屋なの?」と訊ねると、リーマスは「伝説上の部屋だ」と答えた。

「サラザール・スリザリンの部屋で、彼が意見の対立からホグワーツを去る前に封印したとされている。しかし、今までそんな部屋は見つかっていない。私達も学生時代にあらゆる隠し通路や隠し部屋を見つけたが、そんな部屋はどこにもなかった」

 今度は私が怪訝な顔をする番だった。私は映画を観たことも小説を読んだこともないけれど、『ハリー・ポッター』の第2巻のタイトルが『秘密の部屋』だということを確かに知っているのだ。ありもしない部屋が果たしてタイトルになるだろうか。もしそれが本当はホグワーツのどこかに隠れているとしたら? もしヴォルデモートが知っていて、腹心の部下に教えていたとしたら――?

「ねえ、もし仮に部屋があったとしたら――ルシウス・マルフォイは秘密の部屋の場所を知っていると思う?」

 私がたった今思いついたばかりの仮説を口にすると、リーマスはギョッとした表情をした。「ルシウス・マルフォイだって?」と訊ねる。

「ヴォルデモートの部下だったってフレッドとジョージが話していたの。それで、その人の息子が私達と同学年なの」
「君はヴォルデモートがその場所を知っていて、部下だったルシウス・マルフォイをそれを教えたと考えているのかい?」
「そう。そして、ルシウス・マルフォイがハリーを陥れるために息子にその場所を教えたとしたら?」

 あくまで憶測の域を出なかったが、それなら辻褄が合うような気がしたのだ。もしドビーの仕えている先がマルフォイ家なら、その策略を知ることが出来ただろう。だから主人の目を盗んでハリーに警告に来たのだ。

「ルシウス・マルフォイは自分の保身しか考えていない人物だ。力を失ってどこにいるかも分からない主人のためにそこまでするとは思えないが――念のためにダンブルドア先生に手紙を書いた方がいいかもしれないね。君は今年度も何かあると考えているんだろう?」
「ええ。確実に何かが起こるわ。絶対に――」

 リーマスの言葉に私は真剣な表情で返事を返した。リーマスは私の目を真っ直ぐに見て、それから、

「私は君を信じよう」

 と深く頷いたのだった。