Phantoms of the past - 018

2. ハリー救出大作戦



 空飛ぶ車で助けにやってきた私達をハリーは心底驚いた表情で出迎えた。「おじさん達が僕を監禁して学校に戻れないようにしている」というハリーの言葉通り、窓には鉄格子が嵌められているのはもちろんのこと、部屋にも鍵を掛けられ、なんと「餌差し入れ口」なるものを取り付けられていた。

 『賢者の石』の小説で読んで少しは知っているつもりだったけれど、知れば知るほどダーズリー一家は非人道的な人達だった。私はクソ爆弾を投げつけて呪いを掛けてやりたい衝動が沸々と沸き起こってくるのを感じたが、今はハリーの救出が先である。ロンに「顔が怖いよ、ハナ」と3回も言われながら、私はロンとフレッドとジョージと協力して鉄格子を外し、ダーズリー家に乗り込んだ。リーマスの忠告がなければ私は今夜確実にダーズリー一家を襲撃していたことだろう。

 階段下の物置に荷物が詰められているというので、フレッドとジョージがそれを取りに行き、私とハリーとロンで部屋の中にあるものを集めることになった。ハリーは私がクリスマスプレゼントにあげた巾着袋を手元に持っていたので、私達は必要なものをそれに詰め込むだけで良かったのは幸いだった。ハリーは「これがなかったら僕はもう餓死していたよ」と言っていたので、プレゼントして本当に良かったと私は心底安堵した。

 事は順調に進んだ。何故かヘアピンで鍵を開ける小技を習得していたフレッドとジョージもダーズリー一家に気付かれることなく、階段下の物置からハリーのトランクを運び出すことに成功したし、ヘドウィグも終始大人しくこの状況を見守っていた。

 しかし、ヘドウィグが部屋の隅に置かれた鳥籠の中であまりに大人しくしていたために、私達の誰もがヘドウィグの存在を忘れてしまっていたのが、運の尽きだった。荷物を車に詰め終わり、いよいよハリーも乗り込むぞという時になって、ヘドウィグが「私を忘れてるぞ!」と言わんばかりに大きな声で鳴いたのだ。すると、

「あの忌々しいふくろうめが!」

 ヘドウィグの鳴き声でこれまでぐっすり眠っていたはずのダーズリー家の家長のバーノンおじさんの叫び声が家の中に響いた。おじさんはすぐにでもハリーの部屋にやってくるに違いない。けれど、ヘドウィグを置いていく訳にはいかなかった。ハリーは大急ぎで部屋の隅に戻り、鳥籠を引っ掴んだ。

 窓際まで戻って来たハリーはロンに鳥籠を投げ、自分も窓によじ登ろうとしたけれど、その時遂にバーノンおじさんが部屋に飛び込んできた。怒れる猛牛のように鼻息を荒げてハリーに飛びかかり、足首を掴む。

「ペチュニア!」

 おじさんが喚いた。

「奴が逃げる! 奴が逃げるぞ!」

 この期に及んでハリーをまだ監禁し続ける気でいるのが信じられなかった。満足に食事も与えず、飢えさせ、窓に鉄格子まで嵌められれば、誰しもが逃げたいと思うのは当然ではないだろうか。逃げるのが正解なのだ。

 私はロンとフレッド、ジョージがハリーをグイッと引っ張っているのを横目に、後部座席の反対側のドアから車の屋根によじ登った。部屋の窓からハリーを連れ戻そうとするバーノンおじさんの顔を屋根の上から睨みつけると、誰も彼もが一瞬ポカンとしてこちらを見た。

「ハーイ、ミスター・バーノン・ダーズリー」

 私は出来る限り朗らかな口調を装ったが、その声音は冷え切っていた。

「これまでハリーを育ててくれたことを感謝します」

 バーノンおじさんは何を言われているのかさっぱり分からないという顔で私を見ていた。その隙にひと足先に我に返ったロンとフレッド、ジョージがハリーを車の中に引きずり込むことに成功すると、車のドアはバタンと閉められた。

「ただ、言わせていただきます。未成年の子どもに碌な食事を与えず監禁までするなんて、それが子を持つ親のすることですか! 恥を知りなさい! 次にハリーにこんな仕打ちをしたら、私が必ず地の果てまで追いかけてやるわ。覚えておきなさい!」

 私が言い終えるや否や、車は月に向かって浮上した。ハリーの部屋の窓からは未だに呆然としたバーノンおじさんと、この騒ぎに起きてきたペチュニアおばさん、それから、ダドリーが身を乗り出してこちらを見ている。事が終わるまで近くにいたらしいロキがそんなダーズリー一家に威嚇するように目の前で鳴くと、彼らは揃って後ろに倒れ込んだ。

「来年の夏にまたね!」

 ハリーが叫ぶと、ロンとフレッド、ジョージは大笑いしていた。私がハリーとロンに手助けされながら慎重に車の中に戻ると「悪役っぽかったぜ、ハナ!」とフレッドがニヤニヤしながら運転席から声を掛けてきた。

「それでこそホグワーツ史上最強の魔女だ」

 ジョージも同じようにニヤニヤ顔で言った。
 私はそんな彼らに苦笑いしながら、ハリーに「勝手なことをごめんなさい。つい、カッとなって」と謝った。このことで来年ハリーが更に冷遇されないことを祈るばかりだ。けれども、そんな私の心配をよそにハリーは、満面の笑みで笑った。

「正義のヒーローみたいだったよ、ハナ」