Phantoms of the past - 017

2. ハリー救出大作戦

――Harry――



 あの最悪な誕生日から3日――ハリーはダーズリー家の2階にある部屋に閉じ込められていた。怒り狂ったバーノンおじさんは容赦がなくて、翌朝には人を雇ってハリーの部屋の窓に鉄格子を嵌めさせ、部屋のドアには自ら「餌差し入れ口」を取り付けてしまった。ハリーは朝と夕方にトイレに行くことしか部屋を出ることを許されず、食事だってほんの僅かしか貰えなかった。

 去年のクリスマスにハナがあの巾着袋をくれなかったら一体どうなっていただろうかとハリーは身震いした。あの巾着袋があるからこそ1日3回の食事が鳥の餌並みでもハリーは飢えずに凌げているのだ。それにヘドウィグにだって、毎日ビスケットをあげることも出来て、ハリーは愛梟あいきょうにまで恨みがましく見られる心配をせずに済んだ。

 けれど、このまま部屋から出られなければいつか食料は尽きる。それに例えハナがくれたお菓子で夏休みの残り1ヶ月を乗り切れたとしても、ハリーがホグワーツに行くことが出来なければどうなってしまうのかも分からなかった。退校だろうか? それとも、ダーズリー一家にハリーを解放するよう誰か説得に来てくれるだろうか。

 鉄格子の向こうから夕陽が沈むのを眺めながら、ハリーはとても惨めな気分になった。魔法を使えばこの部屋から出られるかもしれないが、そうなると魔法省はハリーが3日の間に2回も魔法を使ったと思ってすぐに退校にしてしまうだろう。もしかしたらハナならダンブルドアを説得して助けに来てくれるかもしれないが、果たしてそれはいつだろうか。

 そんなことを考えている間に窓の外はあっという間に暗くなってきた。ハリーは疲れ果てて、答えのない疑問を何度も繰り返しながら、まどろみ始めた。

 すると、夢の中でハリーは動物園の檻の中にいた。檻には「半人前魔法使い」と掲示板が掛かっていて、鉄格子の向こうからいろんな人がハリーをジロジロと覗いている。ハリーは弱っていて、藁のベッドに横たわっているのだ。

 見物客の中にドビーの顔を見つけて、ハリーは助けを求めた。しかし、ドビーは「ハリー・ポッターはそこにいれば安全でございます!」と言って姿を消してしまった。

 今度はダーズリー一家がやってきた。ダドリーが檻の鉄格子をガタガタ揺すって、ハリーのことを笑っている。

「やめてくれ」

 ガタガタという音が頭に響くのでハリー呟いた。

「ほっといてくれよ……やめて……僕眠りたいんだ……」

 そこで、ハリーは目を開けた。月明りが窓の鉄格子を通して射し込んでいて、そこから誰かが本当にハリーをジロジロ覗いていた。光に当たると茶色く透けてキラキラと輝く長い黒髪に明るいヘーゼルの瞳、肌はまるで白磁のように色白で、どこかアジア系を思わせる顔立ち――

「ハリー!」

 本当にハナがハリーを助けに来てくれたのだ。