Phantoms of the past - 016

2. ハリー救出大作戦



 オッタリー・セント・キャッチポール村のあるデヴォン州の街の灯りが、眼下に広がっていた。これが晴れた日の昼間だったら、空飛ぶフォード・アングリアは地上にいるマグルに丸見えだっただろうけれど、今は夜の暗闇と曇り空がその姿を隠してくれていた。

「フレッド、どうして運転出来るの? したことがないって言っていたのに」
「そりゃ、運転ドライビングはないさ。だけど、飛行フライングなら何度か経験がある」

 フレッドが揶揄からかうようにそう言いながら、後部座席に座る私を見た。先程、運転経験が「ないけど、出来るさ」と言っていたのはそう言うことだったのだ。

「それは屁理屈って言うのよ。私、とっても心配したのに……ねえ、どうやって飛行を覚えたの?」
「親父が乗ってるところを見たことがあるんだ。本当はなんとかってやつで何かをチェンジしなきゃいけないらしいんだけど」
「シフトレバーでギアをチェンジね」
「そう、確かそんな感じだ。でも、親父が扱いやすいようにちょっと魔法を掛けてる」

 「パパは扱い方が分からなかったんだ」とジョージが助手席で笑うのを聞いて、私は心底ホッとしていた。オートマチック車なら運転初心者の子どもでもまだ運転出来るだろうが、マニュアル車を運転出来るはずがないと心配だったのだ。ウィーズリーおじさんが扱いやすいように魔法を掛けてくれていて本当に良かったと思う。

 そういう訳で、意外にも空の旅は順調だった。案外私がいなくても彼らは上手くやったのかもしれない、と思う順調さだった。

 サレー州のリトル・ウィンジングまでは200km以上もあるけれど、ここは空の上なので幸いにもスピード違反を取り締まる警察官は誰もいない。飛行機やヘリコプターにだけ気をつけていれば、どれだけスピードを出しても問題はないのだ。上手くいけば、2時間ほどでハリーのところへ辿り着けるだろう。

「それにしても、ハリーはどうして返事をくれないんだろう? 僕、君が泊まりに来て以降たくさん出したんだ。でも、1つも返事が来なかった」

 隠れ穴を飛び立ってしばらくして、ロンが言った。

「私にも返事が来なかったの。ハーマイオニーも来ていないって言っていたわ」

 それから私達は4人であれこれハリーに何が起こっているのかについて話し出した。「ハリーはマグルの親戚の家に帰った途端ホグワーツのことを忘れる魔法に掛かっている」と冗談っぽく言ったのはフレッドだ。「案外バカンスを楽しんでいて忘れているだけかもしれないぞ」と言ったのはジョージ。「返事を出すことをうっかり忘れているのかも」と言うのはロンの意見だ。

「貴方達、ハリーは公式警告状を受け取ったのよ」
「冗談だよ、パーシー」
「私はハナよ、フレッド」

 そんな話をしているうちに車はサレー州の上空に突入した。ここからリトル・ウィンジングのプリペッド通りを探さなければならないのだけれど、これが結構一苦労だった。時折り高度を下げ標識を見たりしながら進まなければならなかったからだ。

「これは大仕事だぞ」

 ジョージが下を見ながら言った。4人もいるのにこの中の誰もリトル・ウィンジングのプリペッド通りが具体的にどの辺りにあるのか分からなかったのだ。フォード・アングリアはスピードを落とし、4人共窓から眼下に広がる街並みに目を凝らしている。すると、

「ホーゥ」

 聴きなれた鳴き声が聞こえて私は顔を上げた。見れば、前方から夜の暗闇を真っ黒なふくろうが1羽飛んで来ている。あれは――

「ロキ!」

 そう、ロキだった。きっとリーマスが飛ばしてくれたのだということは、すぐに分かった。ふくろうなら、ハリーが具体的にどこにいるのか案内出来るからだ。

「助かった!」

 ロンが嬉しそうに声を上げた。

「これでハリーのところまで案内して貰えるよ!」

 ロキはそばまでやってくると大きく旋回し、私達を先導するようにフォード・アングリアの少し先を飛び始めた。車のライトがあるので、夜の暗闇の中でもロキの姿ははっきりと確認することが出来た。

「近いぞ」

 やがて、少しずつロキが高度を下げ始めるとフレッドが言った。家々が建ち並ぶ住宅街の中をスーッと飛んでいき、そして、

「あそこだわ」

 ロキはプリペッド通り4番地の2階にある鉄格子の取り付けられた窓に音もなく静かに降り立った。