Phantoms of the past - 014

2. ハリー救出大作戦



「ジョージ・ウィーズリー! 本物! 安全!」

 来訪者探知機の鳩が大きな声でそう告げたのは、リーマスとゴドリックの谷へと出掛けた翌日の8月1日の夜のことだった。キッチンで一緒に夕食の片付けをしていた私達はお互い飛び上がるほど驚いて、何事だと顔を見合わせた。私の聞き間違いでなければ、来訪者探知機はジョージ・ウィーズリーだと言わなかっただろうか。玄関からジョージがやってくるはずがないのに、一体どういうことだろう。

「ハナ、まずい。暖炉だ」

 私よりも先にそのことに気付いたのはリーマスだった。この間煙突飛行で帰る時に私の自宅の暖炉の名前を聞かれていたから、それで彼がやって来たに違いない。あそこには、ジェームズやシリウス、リーマスとの写真が置いてあるので、見られたらまずい。彼の言葉にハッとした私は慌ててリビングに駆け込んで、

「きゃあ!」

 暖炉の中に浮かぶ生首・・に悲鳴を上げた。だって、本当に生首が炎の中にあったのだ。ジョージの顔をした生首が。

「やあ、ハナ」

 ジョージの生首が朗らかに挨拶をした。

「ジョ……ジョージ……? これ、どうなっているの? 貴方の顔だけ……」

 今ので私は寿命が数年縮んだに違いない。ドキドキしている心臓を抑えながら暖炉の前に膝をつきジョージの顔を覗き込むと、彼は「暖炉に顔だけ突っ込んでるんだ。煙突飛行のもう1つの使い方さ」と言った。見られてはいけないものが見られなかったのは良かったが、こんなに心臓に悪い使い道があるだろうか。次は是非とも心の準備が欲しい。

「こんな使い方があるだなんて、知らなかった」
「驚かしてごめんよ。どうしても君に伝えておかなくちゃいけないことがあったんだ」

 朗らかな口調とは一転して、ジョージは真剣な表情で言った。一体何があるというのだろうか。「どうしたの?」と問うと、ジョージの後ろから「ハナ! ハリーだよ! 大変なんだ!」というロンの声だけが聞こえた。

「ハリー? どういうこと?」
「昨日、ハリーが魔法を使って公式警告状を受けたらしいんだ。パパが魔法省で聞いてきた話だから間違いない。まだ退学にはならないから心配いらないけど、何か向こうであったのかもしれない」

 ジョージの言葉に私は思いっきり顔をしかめた。あの一家のことだ。夏休みで戻ってきたハリーを手厚く歓迎するなんてしないはずだ。手紙のやり取りが出来ていないことからも夏休みが始まってから、ハリーにひどい仕打ちをしているに違いない。でなければ、ハリーは魔法を使ったりしないはずだ。

「ハリーは無闇に魔法を使ったりしないわ。だって、ダーズリー家にいるより、ホグワーツに戻りたいはずだもの。そうしなければならない何かがあったんだわ……ウィーズリーおじさんはハリーの住所をご存知ないかしら? 私、ハリーのところに行くわ」
「聞いてみるよ。待ってて。必ず連絡する」
「ええ、お願いよ、ジョージ」

 「任せて」とでもいうようにジョージの生首はお得意のウインクすると、暖炉から消えていった。私はジョージの生首があった場所をジッと見つめながら、しばらくはここで寝た方がいいかもしれない、と考えていた。それに、写真を別の場所に移す必要がある。今日は見られなかったけれど、次は見られるかもしれない。ダンブルドア先生に口止めされているうちは、誰にも見せられないのだから――

「ハナ、大丈夫だったかい?」

 キッチンから様子をうかがっていたのだろう。ジョージが消えてしばらくしてから、リーマスがリビングへとやって来た。ジョージと話している間、リーマスは気を遣ってずっとキッチンに留まってくれていたのだ。私が口止めされていることを知っているから、もしかしたらハリーの名前が出たので顔を出さない方がいいと判断したのかもしれない。そんな彼に今しがたジョージから聞いた話すると、彼は「心配だな……」と表情を曇らせた。

「また連絡してくれると言っていたから、私、しばらくはリビングで眠ることにするわ。それに、写真をどこかへ移動しなければならないと思うの。どこがいいと思う?」
「そうだな――君の部屋はどうだい? 君がいつでも見れるように。私は同じものを持っているからね」
「じゃあ、そうするわ。ありがとう、リーマス」

 この日から私は連絡を待ってなるべくリビングで1日を過ごすようにした。もちろん、夜眠るのもリビングだ。再び連絡が来たのは、

「フレッド・ウィーズリー! 本物! 安全!」

 それから2日後のことだった。