Phantoms of the past - 013

2. ハリー救出大作戦

――Harry――



 ハリーの部屋に現れた生き物は「屋敷しもべ妖精ハウス・エルフのドビー」と名乗った。何やらハリーに用があってやって来たようだったが、何もこんな日に来なくてもいいのに、とハリーは思った。今夜はメイソン夫妻が来ているからとても都合が悪いのだ。

 しかし、ドビーはそんなハリーの気持ちなどこれっぽっちも考えてはくれなかった。もし、少しでも考えてくれていたのなら、ハリーが「座ってね」と言っただけでオンオン泣いたりはしなかっただろう。それに「君は礼儀正しい魔法使いに、あんまり会わなかったんだね」という言葉に頷いたあとに、自らの頭を窓ガラスに打ちつけるという奇行も思い止まってくれたかもしれない。

 ハリーは「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」と激しく頭を打ちつけるドビーを慌てて引き戻したけれど、この騒ぎで折角寝ていたヘドウィグが目を覚ましてしまった。ヘドウィグは機嫌を損ねてしまったのか、一際大きく鳴いたかと思うと、鳥籠の格子にバタバタと激しく羽根を打ちつけた。

 この騒ぎが階下に聞こえたかもしれない、と思うとハリーはハラハラしたが、幸運なことにバーノンおじさんはハリーの元に乗り込んでは来なかった。聞こえていなかったかもしれないし、もしかしたらメイソン夫妻の接待の最中なので聞こえないふりをしたのかもしれない。

 バーノンおじさんがメイソン夫妻の接待を続けている間に、なんとかドビーを落ち着かせることに成功したハリーはやっとまともにドビーと話が出来るようになった。ドビーはとある魔法使いの家族に仕えているらしいのだが、先程の奇行について「ドビーめは自分でお仕置きをしなければならないのです。自分の家族の悪口を言いかけたのでございます……」と話した。

 その魔法使いの家族のドビーに対する扱いに、ハリーはもしかしたらダーズリー一家は割と人間らしいのかもしれないと思ったほどだった。屋敷しもべ妖精ハウス・エルフはそんなにひどい家族の元からも逃げることが出来ないらしい。

 けれど、ドビーはそんな家族に黙ってハリーの元にやって来た。あとで自分で自分を罰しないといけないにも関わらず、だ。なんとドビーはハリーを守るために警告に来たのだと言う。その警告というのが、

「ハリー・ポッターはホグワーツに戻ってはなりません」

 というハリーには到底許容し難いものだった。今年度、ホグワーツに罠が仕掛けられ、世にも恐ろしいことが起こるので、ホグワーツには戻ってはいけないと言うのだ。しかし、誰がそんな罠を仕掛けるのかと聞くと、ドビーは狂ったように壁にバンバン頭を打ちつけ始めるので、ハリーは犯人が誰なのか聞くことが出来なかった。一瞬、ヴォルデモートが何かするのかとも思ったが、ドビー曰く「“名前を呼んではいけないあの人” ではございません」とのことだった。

 しかし、ハナやロン、そして、ハーマイオニーがハリーに1度も手紙を寄越さない理由は分かった。ドビーが手紙を全部ストップさせていたからなのだ。みんな、たくさん手紙を書いてくれていたのに、その全てをドビーが取り上げてしまっていたのだ。ハリーが友達に忘れられたと思えば、ホグワーツに戻りたくなくなるだろうと考えたらしい。

 ドビーが取り出したたくさんの手紙の山の中にはハーマイオニーのきちんとした字や、のたくったようなロンの字、それにハナの大人っぽい綺麗な字が見えた。中には誕生日プレゼントと思われる包みもある。包みに書かれた「ハリー、誕生日おめでとう!」という文字はハナのものだ。

「ホグワーツには戻らないとドビーに約束したら、ハリー・ポッターに手紙を差し上げます」

 ドビーはそう言ったが、ホグワーツに戻らない約束なんて出来るはずがなかった。ハリーがなかなか頷かないので、ドビーは最終手段だとばかりに部屋を飛び出すと、キッチンに向かい――なんと、ペチュニアおばさんの傑作デザートを宙に浮かせ、床に落としてしまった。

 最悪な1日はそれでもまだ終わらなかった。真犯人であるドビーはどこかに消えてしまうし、メイソン夫妻との商談に失敗したバーノンおじさんはカンカンだし、1番最悪なのはダーズリー一家にハリーが夏休みの間魔法を使ってはいけないことがバレてしまったことだ。魔法省の魔法不適正使用取締局から警告の手紙が来たのだ。

「お前は、学校の外で魔法を使ってはならんということを、黙っていたな」

 そしてハリーは部屋に閉じ込められ、最悪な誕生日は幕を閉じたのだった。