Phantoms of the past - 011

1. 隠れ穴とゴドリックの谷



 ゴドリックの谷は、ジェームズとリリー、そして、ハリーがヴォルデモートの魔の手から逃れるために、隠れ住んでいた場所だった。11年前のハロウィーンの日、この村でジェームズとリリーとハリーはヴォルデモートに襲われたのだ。広場に像があったのは、そういう訳だったのだ。私は泣きじゃくりながら、リーマスのその話を聞いていた。

 17年前――私がもっと現状をしっかり把握していれば、何か未来が変わったかもしれない。ハリーはダーズリー家で苦しい思いをしなくて良かったかもしれない。あの時、私だけが未来を知っていたのに、私は彼らのために何もしてあげられなかった。それでも、ジェームズはこんな私を責めたりはしないのだろう。「君のせいじゃないさ。大丈夫」と言って笑うのだろう。

 リーマスだって、あの時既に私がジェームズとリリーに訪れる未来を知っていたと、どこかのタイミングで気付いていたはずだ。彼は私の世界に本があるということを知っているし、何より再会した時、彼は謝る私に理由を聞かずに「君だけのせいじゃない」と言ったからだ。彼も分かっていて、私を責めなかった。むしろ、いつも心配して、こうして休暇を一緒に過ごしてくれている。

 唯一リーマスがジェームズとリリーと違うところは、本当に裏切ったのは誰か知らないということだろう。彼は裏切ったのはシリウスだと今でも思っているはずだ。きっと、私がシリウスの話題を避けているから、彼はシリウスが裏切ったことが真実なのだと思っているに違いない。

「まずは学ぶこと――」

 墓石に刻まれたジェームズとリリーの名前を見ながら、私はぽつりと呟いた。優しい友達のために一体私に何が出来るだろうと考えていたら、そんな言葉が口から滑り落ちたのだ。あんなに泣きじゃくっていたのに、いつの間にか涙は止まっていた。

「そして、身を守る術を得ねばならない」

 それは、1年前にダンブルドア先生が私に言った言葉だった。ハリーを助けたいという私を彼はそう言ってたしなめたのだ。私は今更ながらにその言葉の大切さを感じていた。

 なぜなら、1年勉強を重ねても私はいざという時、役立たずだったのだ。友情に報いたいと思うのなら、私はまず、もっと我が身を守ることを考えなければならない。次はセドリックをあんな目に合わせたりしない。ハリー1人に頑張らせたりしない。リーマスを心配させたりしない。

「次は吹き飛ばして、失神させてやるわ」

 突然そんなことを言い出した私にリーマスは「え?」と驚いた声を出した。リーマスを見ると、彼は怒った方が良いのか、それとも笑えばいいのかよく分からないという顔をしたのち、「君は大泣きしていると思えば、突然たくましい目をするんだな」と言って苦笑いを零した。

 それから私達は、リーマスが魔法で作り出した花束を墓前に供え、墓地を後にした。「連れて来てくれてありがとう」とリーマスに言うと、彼は「君と一緒に来たいと思っていたんだ」と静かに語った。

「本当はあの先に家もあるんだ。あの日のまま保存されている」

 広場を横切り、歩いて来た小道を戻りながら、リーマスが言った。

「でも、あそこはどうしても――すまない」
「大丈夫よ。今日も私のために連れて来てくれたんでしょう? 貴方も辛いはずなのに」
「いや、さっきも言ったように私が君と来たかったんだ。私の方こそ、辛い思いをさせた」
「いいえ。私、貴方と来ることが出来て良かった」

 私達は姿現わしをした場所まで戻ると、そこから姿くらましをしてメアリルボーンの自宅のリビングに戻った。それほど長居をしたつもりはなかったけれど、時刻はもう午後3時をとっくに過ぎていた。私達は1日の残りの時間をジェームズとリリーを偲ぶように、リビングで静かに過ごした。

 そんなリビングでは、暖炉の上で写真の中のジェームズが楽しげに手を振ってくれていた。