Phantoms of the past - 006

1. 隠れ穴とゴドリックの谷



 昼食のあと、ウィーズリーおばさんの片付けを手伝ってから、私はフレッドとジョージの部屋にお邪魔させて貰うこととなった。彼らの部屋は3階にあって、ベッドと小机が2つ並んでいたので、ジニーの部屋よりも広い部屋だった。この部屋も窓から明るい陽射しが差し込んでいて、とても日当たりの良い部屋だったけれど、唯一の欠点は火薬臭いところだった。

 何故か布団の中がこんもり盛り上がっていたが、きっと何かを隠しているのだろうと察して、私はそれを無視して差し出された小机の椅子に腰掛けた。誰でも、散らかっているの見られるのは嫌なものだと思ったからだ。しかし、小机の上には隠しきれていない魔法薬学の教科書やら、羊皮紙の切れ端が残っている。もしかしたら宿題かもしれないけれど、火薬を使う宿題が上級生で出るのかは疑問だった。

「さて、記念すべき我々の第1回目の作戦会議だ」

 自分のベッドに腰掛けているフレッドが仰々しい雰囲気で言った。

「麗しきレイブンクローの才女であるハナ・ミズマチ嬢はご存知ないかもしれないが、ホグワーツからホグズミードへ繋がっている隠し通路は全部で7本ある。しかし、うち1本の上には暴れ柳が植えられていて、また、4本はフィルチが知っている」
「けれども悲しむ必要はない。我々にはまだ2本残されている。5階の鏡の裏からの道と4階の隻眼の魔女の像からの道だ」

 1年生の間、突然現れるフレッドとジョージには度々驚かされたものだったけれど、彼らはもしかしたらたった3年間で全ての隠し通路を網羅したのかもしれないと私は思った。素直に「凄い……」と言葉を漏らすと、彼らはニヤリと笑った。

「7本ある道はそれぞれ、ホグズミードにある建物に繋がってるんだ。郵便局とかマダム・パディフットの店、グラドラグス魔法ファッション店なんかには繋がってないけど、まあ、あそこには繋がってなくても問題はないさ。俺達には用がないからな」
「マダム・パディフットの店ってどんな店なの? 郵便局とかは分かるとして――あ!!」

 郵便局、と言った途端、私は大事なことを思い出して思わず叫んだ。フレッドとジョージは突然叫んだ私にびっくりして目を丸くしながらこちらを見ている。

「ハナ、どうしたんだ?」

 ジョージが訊ねた。

「私、ロキのことをすっかり忘れていたの!」

 言いながら私は慌てて窓の外を見た。初めてのウィーズリー家があまりに充実していたものだから、ロキが到着していないことをすっかり失念してしまっていたのだ。

「ロキって、君のふくろうのことか?」

 フレッドが私の隣に立って、同じように窓の外を見ながら訊ねた。反対側ではジョージも同じように窓の外を見ている。

「そう――煙突飛行で問題があったらいけないからって、昨日の昼頃にこっちに送り出したのよ。もう着いてもいいはずなのに……」
「そりゃおかしいな」
「ハナ家からここまでは離れてるけど、ロキは今まで君の家から隠れ穴に来るのに1日以上掛かったことない」

 折角フレッドとジョージが私のためにホグズミードへ行く作戦会議を開いてくれたのに、作戦会議はそれどころではなくなってしまった。もしかしたらロキに何かあったのかもしれないと心配する私に、彼らは作戦会議を中断して外へと連れて行ってくれた。ロキがやって来るのが見えるかもしれないと思ったのだ。

「君のふくろうはいつも向こうの東の空から来るんだ」

 果樹の向こうの空を指差しながらジョージが言った。

「こんなことなら、一緒に煙突飛行で来たら良かったのかもしれないわ……」
「大丈夫さ。君のふくろうはうちのエロールより遥かに賢い」
「それに、寄り道してるのかもしれないしな。ハナの所にちゃんと戻ってくるさ」

 すっかり落ち込んでしまった私を励ますように、フレッドとジョージが両隣から私の背中や頭をポンポンと撫でてくれたが、私の気分は一向に晴れなかった。本当に寄り道しているだけだったらいいけれど、もし来る途中で何かあったらと思うと気が気ではなかった。

 お茶の時間になって、ウィーズリーおばさんやロン、ジニーにもロキのことを相談したけれど、誰もロキの姿を見ていないとのことだった。誰もが「大丈夫、きっと戻って来る」と私を励ましてくれたけれど、その日夜になり、遂に満月が出ても、ロキは一向に隠れ穴に現れなかったのだった。