Phantoms of the past - 005

1. 隠れ穴とゴドリックの谷



 昼食はキッチンにあるテーブルをみんなで囲んで食べることになった。この時ばかりはパーシーも部屋から出て来て、私はようやく彼に挨拶をすることが出来た。パーシーも私の学年末試験の結果を知っているようで「聞いたよ。トップだったんだってね。おめでとう」と言ってくれた。

「そういえば、ハナ、君はハリーに手紙を出した?」

 私の隣にはロンが座った。昼食の時間がはじまると、彼は自分の皿にシャパーズパイを山盛り乗せながら訊ねた。

「ええ、夏休みが始まって3通は出したの。でも、返事が来ないのよ。ロンはハリーから何か手紙は届いた?」

 私もブロッコリーの入ったマカロニチーズを皿に乗せながら、答えた。マカロニチーズはその名の通り、茹でたマカロニにチーズがたっぷり掛かっているイギリスの家庭料理だ。

「僕は夏休みに入ってしばらくしてから家に招待しようと思って、1通送ったんだ。それで返事を待ってたんだけど、全然来ないからこの間2通目を送ったところなんだ」
「変よね……ハーマイオニーはどうかしら」
「まだ聞いてないんだ。僕、うちのふくろうのエロールが年寄りだから、最初は配達に失敗したと思ってて。でも、返事どころかハリーから手紙も来ないから、まずは君に確認してみようと思ったんだ。でも、この分だとハーマイオニーの手紙も届いてないだろうな」

 ロンと話をして、この件は一旦ハーマイオニーともやり取りをしてから確認しよう、ということになった。けれど、私もロンもハーマイオニーからの返事は期待出来るものではないだろうと思っていた。

「親戚の人に何かされていなければいいんだけれど」
「夏休みがはじまる前にキングズ・クロス駅で見かけたけど、ありゃろくなマグルじゃなかった」

 私の言葉にロンはしかめっ面で返した。夏休みの初めにホグワーツ特急に乗ってキングズ・クロス駅へ戻った際、ハリーを迎えに来てくれていたダーズリー一家と遭遇した時のことを思い出しているようだった。

「心配だわ。もし、食べ物を充分に貰えていなかったらと思うと――ほら、最初に会った時、ハリーはとっても痩せていたでしょう」
「ハリーが君のくれた巾着袋の存在を忘れていないことを祈るしかないね」

 何はともあれ、今はハーマイオニーの方はどうなのか確認しなければならない。私はひっそりと溜息をつきながら、ハリーに住所と電話番号を聞かなかったことを心底後悔していた。すっかりふくろうでの手紙のやり取りに慣れてしまって、訊ねるのを失念していたのだ。

「ほら、そんな辛気臭い顔してないで、昼食が終わったら例の話をしよう。僕達の部屋に案内するよ」

 溜息をついてしまったのを見られたのか、私の向かい側に座っていたジョージがそう言って声を掛けてきた。ロンは「例の話?」と不思議そうにしていたが、パーシーは全く興味がないのか、昼食を食べ終え、また部屋に引っ込んでしまった。

「ロニー、これは俺達とハナの秘密なんだ」

 フレッドがニヤニヤと笑いながら言った。

「教えてくれたっていいじゃないか。僕はフレッドとジョージの兄弟だし、それにハナと友達だ」

 ロンはそう言って食い下がったが、フレッドとジョージは「絶対教えられない」の一点張りだった。どうやら2人はホグズミードへ行く抜け道をロンに教えるのはまだ早いと考えているようだった。

「ああ、ちょっとごめんなさいね。少し詰めてちょうだいな」

 ロンとフレッドとジョージが小競り合いをしていると、昼食が始まってからもバタバタとしていたウィーズリーおばさんがフレッドの隣にやって来て、3人は慌てて口を噤んだ。小競り合いを母親に聞かれるのはマズイと思ったらしい。

「ハナ、料理は口に合っているかしら」

 何も知らないウィーズリーおばさんはにこやかな笑顔で私に訊ねた。

「ええ、とっても美味しいです」
「それは良かった。貴方から頂いたお菓子はお茶の時間に食べようと思っていますからね――それにしても、フレッドとジョージとロンはどうしてそんなに静かなの?」

 一言も喋ろうとしない息子達を不思議に思ったのか、ウィーズリーおばさんが訊ねた。3人は揃って「何でもないよ、ママ」と答えたが、今で一部始終を黙って見ていたジニーが、

「ママ、3人はハナの取り合いをしていたのよ」

 クスクス笑いながらそう言った。