Phantoms of the past - 002

1. 隠れ穴とゴドリックの谷



 ウィーズリー家への手紙は朝食後にすぐに書いてロキに持たせた。ロキはホグワーツにいる間あまり活躍出来なかったので、この夏は手紙のやり取りで長距離を何度も任せられるのが誇らしいようだった。私が手紙を書き始めると、飛び立つのは今か今かと籠の中でソワソワし出すので、思わず笑ってしまった。

 手紙は迷いに迷ってロンに書いたのだけれど、なんと、返事は翌日の夕方にフレッドとジョージから届いた。「僕達があんなに情熱的に誘ったのに、何故ロニー坊やに手紙を書いたんだ」という苦情から始まった手紙は、「パパもママも大歓迎さ。なにせ、学年一の秀才が我が家に来てくれるんだからね」と締め括られていた。

 手紙にはウィーズリー家への行き方も書いてあったのだけれど、煙突飛行ネットワークを使って「隠れ穴」と言えばウィーズリー家の暖炉に辿り着くらしい。煙突飛行ネットワークというのは、なんとなく覚えがある。漏れ鍋でジェームズが教えてくれた魔法界の移動手段の1つだ。

「リーマス! 煙突飛行ネットワークですって!」

 その日の夜、仕事から帰ってきたリーマスに手紙を握り締めてそう言うと何故かリーマスは困った顔をした。言いづらそうに「あー」とか「うーん」とか唸っている。

「どうしたの?」
「ハナ、煙突飛行ネットワークは魔法省に登録してからじゃないと使えないんだ」

 リーマスは言葉を選びながら告げた。

「登録には時間が掛かるかしら? そしたら、漏れ鍋で暖炉を貸して貰って――」
「いや、この家の暖炉は既に魔法省に登録してある」
「え?」
「それで、あー……、登録する時に暖炉の名前を一緒に登録するんだが――同じ名前の暖炉があると混乱するからね――それで、ジェームズがふざけて」
「なんて名前をつけたの?」
「幽霊屋敷、と」

 私は思わず「Pardon?」と聞き返したくなるのを耐えなければならなかった。もう少し可愛らしい名前にしてくれたら良かったのに、とも思ったけれど、レイブンクローの幽霊の家に「幽霊屋敷」と名付けるのは彼らしいセンスだとも思えた。

 もしかしたらシリウスも一枚噛んでいるかもしれないと思ったけれど、それについて聞くことはやめておいた。私がリーマスに真実を打ち明けていないので、シリウスの話は自然とタブーになっているのだ。リーマスはシリウスが裏切り者だと思っているから話を避けているし、私は話に出てしまうと考えなしに真実を話してしまいたくなるので避けている、といった感じだ。

 去年、クリスマス休暇に再会をした時に話さないと決めてからも、本当は打ち明けるべきでは? と、ふと思うことはあった。夏休みに入ってからも、それは何度かあった。けれど、私はその度に思い留まっている。順序を誤って、リーマスの人生を滅茶苦茶には出来ないからだ。

「すまない。私が気付いた時にはもう登録された後だったんだ」
「いいえ、気にしないで。いつかダンブルドア先生が許可をくださった時に、ハリーに話すネタが増えたと思っておくわ」
「ジェームズもまさか自分の息子に告げ口されるとは思ってもみなかっただろうな」

 私達はお互い顔を見合わせてクスクス笑った。
 それから相談し合った結果、12日がリーマスの休みの日なので、その日に煙突飛行粉フルーパウダーを買いに行くことになった。暖炉はネットワークに登録されていたものの、肝心の粉が我が家にはなかったのだ。リーマス曰く、それがないとネットワークは利用出来ないらしい。

 リーマスは煙突飛行ネットワークを初めて利用する私に様々な注意事項も話して聞かせてくれた。その中でリーマスが口を酸っぱくして言っていたのが、行き先を正しく発音する、ということだった。なんでも、少し発音を間違えただけで、違う暖炉に飛ばされてしまうらしい。

 例えば、魔女のバイオレット・ティリマンは1885年、夫のアルバートと口論になった際、とても取り乱した状態で暖炉の中に入り「I want to go to my mother's house!」と叫んだらしい。ところが、この時彼女は泣きじゃくっていたので、違う暖炉に出てしまったらしく、2週間後に夫のアルバートがバイオレットの実家を訪ねた時、彼女の姿はそこにはなかったそうだ。

 彼女が見つかったのはなんと20年後で、夫のアルバートが亡くなったあとに人前に出てきた彼女は誤ってベリーセントエドマンズに住むハンサムな魔法使い、マイロン・アザーハウス・・・・・・の家に辿り着いていたのだと語ったそうだ。なんと、2人はひと目で恋に落ちて、7人もの子どもがいたらしい。

「魔法って何でこう不確かで、確実性がないのかしら。電車で時間を掛けた方がずーっと安心だと思えるわ」

 話を聞き終えた私がそういうと、リーマスはおかしそうに笑っていた。