The symbol of courage - 052

9. 本当の友達



 色々なことがあって何日か医務室に入院もしていたのですっかり忘れていたけれど、学年末パーティーの数日後には試験の結果が発表された。日本では学年末パーティー――つまり、終業式が終わればすぐに夏休みだったので、学年末パーティーの後もしばらくホグワーツにいなければならないことが新鮮だった。

 試験の結果は思った以上に良くて、なんと、ハーマイオニーと並んでトップだった。しかも呪文学と変身術に関しては、ハーマイオニーを抜いてトップで私は人生で初めてこんな好成績を残した。

 それからそう――リーマスから「君は確かに男の子を吹き飛ばしてはいないし、トロールとも戦ってはいけないけれど、私はヴォルデモートを吹き飛ばしていいとも、戦っていいとも言っていない」と心配とお叱りの手紙を貰った。どうやらダンブルドアから話があったようで、「この件について夏休み中に話し合う必要がある」とも書かれていた。

 それでもリーマスは「何はともあれ、君が無事で良かった」と最後に書いてくれていて、その字は少し震えていた。私はそれを見たとき、どれだけ彼を心配させてしまったのだろうかと心底反省した。この先、全く心配かけないというのはきっと無理だろうけれど、私は私を心配してくれる人のために生きることだけは諦めないでいようと、心に誓った。私は1人ではないのだから。

 「休暇中魔法を使わないように」という注意書が全生徒に配られると、いよいよ夏休みの始まりだった。寮の部屋にある洋服箪笥は空っぽになり、トランクを再びいっぱいにすると私達はホグワーツ特急に乗り込んだ。

 今回はハリーやロン、ハーマイオニーと一緒にコンパートメントを取ることになった。同室の子達やセドリックも誘ってくれたんだけれど、先約があると伝えると、みんなとても残念そうにしていたので、少し心苦しかった。

 残念そうだったといえば、フレッドとジョージだ。彼らは試験のあとに私をホグズミードへ連れ出す約束を果たせなかったことをとても悔やんでいて、夏休み明けにリベンジするととても意気込んでいた。お菓子屋さんや悪戯専門店に連れて行ってくれるというので、私は密かに楽しみにしている。

 おしゃべりをしているうちに、ホグワーツ特急はあっという間にキングズ・クロス駅へと到着したように思えた。クリスマスの時と同様、降りる時はちょっと時間がかかって、プラットホームも9番線と10番線の間の柵に向かうのに人がごった返している。

 その柵が9と4分の3番線唯一の改札口のようなものなので、混雑するのも無理はない。しかも、人が一度に大勢出て行ってマグルをビックリさせないように、駅員の人が調整をして少しずつ送り出しているから尚更だ。

「ハナはこの夏誰と過ごすの?」

 人を掻き分け、柵に向かう列に並びながら、思い出したかのようにハリーが訊ねた。

「そうよ! 貴方、ダンブルドア先生が後見人なのに」
「まさか、クリスマスの時みたいに1人なのかい?」

 ハーマイオニーとロンも心配そうな顔で言う。

「いいえ。実は一緒に過ごしてくれる人がいるの。クリスマスの時もその人と一緒に過ごして、この夏もその人が一緒にいてくれるわ」
「そうだったのね。なら、安心だわ。貴方、今年1年大変だったのに、夏に1人になるのかと思って心配だったの」
「心配してくれてありがとう」

 クリスマス休暇の最後に約束した通り、この夏はリーマスと過ごすのだけれど、今回は彼と待ち合わせはしておらず、メアリルボーンの自宅で直接会うことにしていた。キングズ・クロス駅に来てしまうとハリーと会ってしまうかもしれないと、リーマスが遠慮したのだ。リーマスは私にもそうだったように、ハリーにも会わせる顔がないと思っているようだった。

「凄い人混みだわ」

 改札口を通り抜け、マグルの世界に戻るとそこは9と4分の3番線のプラットホームよりごった返していた。「まあ、彼だわ。ねえ、ママ、見て」と言う、ウィーズリー家の末っ子、ジネブラの声が聞こえなければ、ロンはこんなにも早く家族を見つけることが出来なかっただろう。「忙しい1年だった?」と訊ねてきたウィーズリー夫人に、ハリーはクリスマスプレゼントのお礼を言っていたし、私は1年前に漏れ鍋で助けて貰ったお礼をした。

 ウィーズリー一家の近くにはなんと、偶然にもダーズリー一家もいた。彼らはおかしな人達が溢れ返っている中に自分達が立っているのが我慢ならないという雰囲気で、ウィーズリー夫人が挨拶をしようとしてもつっけんどんに返事を返し、とっとと歩いて行ってしまった。

「ハリー、この夏の間、彼らが貴方にひどいことをしなければいいけれど――」
「僕達が家で魔法を使っちゃいけないことを、あの連中は知らないんだ。この夏休みは、ダドリーと大いに楽しくやれるさ……」

 私達の心配をよそに、ハリーはなんだか嬉しそうに見えた。そんなハリーを見送り、ウィーズリー一家と別れの挨拶をし、ハーマイオニーのご両親にも挨拶をしてから、私はトランクとロキが入った鳥籠を持ち、電車に乗ってメアリルボーンの自宅を目指した。

 メアリルボーンのバルカム通り27番地は、私が到着すると明かりがついていた。明かりのついている家に――誰かが待っていてくれている家に帰るのは何年振りだろうかと、私は通りに立ってそれを見ながら思った。両親も祖父母も亡くなり、日本でもイギリスでも、私は明かりのついた家に帰ることが全くなかったのだ。

「た、ただいま」

 ドキドキしながら玄関を開けて中に入った。するとリビングの方からこちらに歩いてくる足音が聞こえ、すぐにリーマスが顔を見せた。

「おかえり、ハナ。先に上がっているよ」

 家の中は夕食のとてもいい匂いがした。すると途端に私のお腹が空腹を訴えて、ぐーと盛大に鳴った。

「さあ、夕食が出来ているよ」

 こうして私の1年は、夕食の香りと私のお腹の音、リーマスのおかしそうな笑い声、それから、

「それからそう、君のお転婆過ぎる行動について、話し合わなければいけないな」

 リーマスのお説教で幕を閉じたのだった。


第2章「The symbol of courage / 勇気の象徴」完