The symbol of courage - 051

9. 本当の友達



 学年末パーティーにはハリーと2人で向かった。
 ダンブルドアが私達を「行かせてあげるように」とマダム・ポンフリーに伝えてくれていたようで、彼女は「まだまだ休息が必要なのに」という顔をしながらも渋々許可を出してくれたのだ。

 そのパーティーに向かう直前には、ハグリッドがお見舞いに来てくれて、「みんな……俺の……バカな……しくじりのせいだ!」と大泣きし始めたので、私もハリーも出来る限り言葉を尽くして彼を慰めた。ハグリッドは私が連れ去られたのも自分のせいだと謝っていたが、私もハリーもハグリッドのせいだなんて微塵も思っていなかった。私は元々狙われていた身だったのだ。

 それからハグリッドはハリーにアルバムのプレゼントを持ってきていた。ジェームズとリリーの学友達に手紙を送って写真を集めたのだそうだ。どのページにもぎっしりと写真が詰まっていて、ジェームズとリリーが手を振ってくれていた。私もそれを横から覗かせて貰ったのだけれど、漏れ鍋で私がジェームズ達と撮った写真は入ってないようで、心底ホッとした。そもそも、あれを渡すようなことをリーマスはしないだろう。

 そんなこんながありつつ向かった大広間は、スリザリン・カラーであるグリーンとシルバーで彩られていた。教職員席の背後には、スリザリンのヘビを描いた巨大な横断幕が、掲げられている。スリザリンが7年連続で寮杯を獲得することになったのだ。

 私とハリーが大広間に入ると、それまでざわざわとしていた大広間が一瞬にして静まり返った。かと思うと、その直後に全員が一斉に大声で話し出して、ざわざわがガヤガヤに変わった。地下で起こった出来事をみんなが知っているので、そのことについて話しているのだろうということは容易に想像出来た。

 私とハリーは入口で別れ、それぞれレイブンクローとグリフィンドールのテーブルに向かった。ハリーはハーマイオニーとロンの間に座って、私はリサとパドマの間に座った。みんなが立ち上がって私やハリーを見ようとしたので、私達は無視を決め込もうとしたが、私は目の合ったセドリックにだけはニッコリ微笑んだ。

 しばらくは、ガヤガヤとした時間が続いたが、それほど長い時間ではなかった。すぐにダンブルドアが大広間に現れたからだ。流石に騒いでいた生徒達も彼が現れるとシーンと静かになった。

「また1年が過ぎた!」

 ダンブルドアがよく通る声で朗らかに言った。

「一同、ごちそうにかぶりつく前に、老いぼれのたわごとをお聞き願おう。何という1年だったろう。君達の頭も以前に比べて少し何かが詰まっていればいいのじゃが……新学年を迎える前に君達の頭が綺麗さっぱり空っぽになる夏休みがやってくる」

 今回は流石に二言、三言では終わらなかったけれど、それでもダンブルドアの話はいつも簡素的なように思う。けれども、今回は挨拶以外にも寮杯の表彰もあったので、ダンブルドアの話はまだまだ続いた。

「それではここで寮対抗杯の表彰を行うことになっとる。点数は次のとおりじゃ。4位グリフィンドール、312点。3位ハッフルパフ、352点。レイブンクローは426点。そしてスリザリン、472点」

 すぐに寮杯の表彰に移り、最終的な得点が発表されると、スリザリンのテーブルから嵐のような歓声と足を踏み鳴らす音が上がった。マルフォイが大興奮でゴブレットでテーブルを叩いている。しかし、今回はグリフィンドールに大量の得点が加算されることを私は映画で見て知っている。

「よし、よし、スリザリン。よくやった。しかし、つい最近の出来事も勘定に入れなくてはなるまいて」

 大騒ぎのスリザリン生を宥めるようにダンブルドアが言うと、途端にスリザリン寮生の顔から笑顔が消えていった。みんな、ダンブルドアがグリフィンドールに追加点を与えようとしていることに気付いたのだ。

「駆け込みの点数をいくつか与えよう」

 ダンブルドアは大広間全体を見渡し、そして最後にグリフィンドールのテーブルを見ると言った。

「まず最初は、ロナルド・ウィーズリー君。この何年間か、ホグワーツで見ることが出来なかったような、最高のチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 割れんばかりの歓声がグリフィンドールから沸き起こった。ロンが真っ赤になりながら、それでも嬉しそうにしているのが私の席からでもよく見えて、私も嬉しくなって目いっぱい拍手をした。

「次に……ハーマイオニー・グレンジャー嬢に……火に囲まれながら、冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点を与える」

 またもや歓声が起こった。一気に100点も増えて、グリフィンドール生が大喜びする中、ハーマイオニーは腕に顔を埋めていた。彼女は仕方のなかったこととはいえ、ドラゴンの件で50点も減点されたことをきっと気にしていただろうから、この加点が人一倍嬉しかったに違いないと私は思った。

「3番目はハリー・ポッター君……」

 ハリーの名前が呼ばれると大歓声は一転して、部屋の中が水を打ったようにシーンとなった。ダンブルドアの声だけが大広間に響いている。

「……その完璧な精神力と、並はずれた勇気を称え、グリフィンドールに60点を与える」

 耳をつんざく大騒音だった。声が嗄れるほど叫びながら足し算が出来た人がいたなら、グリフィンドールが472点になり、スリザリンと同点になったことが分かっただろう。

 私は手が痛くなるほど拍手をしながらも、確かもう1人、加点される人物がいることを思い出していた。確かそれでグリフィンドールが逆転するはずだと考えていると、ダンブルドアが手を上げて、騒ぐ生徒達を鎮めた。

「勇気にもいろいろある」

 大広間が再び静かになると、ダンブルドアは微笑みながらそう切り出した。

「敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。しかし、味方の友人に立ち向かっていくのにも同じくらい勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に10点を与えたい」

 その瞬間、グリフィンドールのテーブルは大爆発した。ハリーもロンもハーマイオニーも立ち上がって歓声を上げていたし、10点を貰ったネビルは周りの生徒達にもみくちゃにされていた。

「したがって飾り付けをちょいと変えねばならんのう」

 嵐のような歓声の中、ダンブルドアが声を張り上げた。

「しかし、その前にもう1人――ハナ・ミズマチ嬢。恐怖に打ち勝つことはなかなか出来ることではない。それでも友を守るために立ち向かった強い意志を称え、レイブンクローに50点を与える」

 ダンブルドアがそう言った瞬間、私以外のレイブンクロー生が大歓声を上げて立ち上がり、私をもみくちゃにした。私はまさか自分が点数を貰えるなんて思ってもみなくて、呆然としたままたくさんの人にハグをされてたり、背中をバンバン叩かれたりした。

「やったわ、ハナ! 私達、スリザリンに勝ったのよ!」

 リサが大興奮で叫んだ。
 50点加算されたレイブンクローは426点から476点になって、472点だったスリザリンと4点差で2位に浮上したのだ。今や3位に転落したスリザリンは大広間の中で唯一歓声に加わらず苦々しげにしていたし、飾り付けがグリフィンドールの真紅と金色に変えられるとスネイプ先生も心底嫌そうな顔でマクゴナガル先生と握手をしていた。

 未だにもみくちゃにされながらもダンブルドアを見れば、「よくやった」という表情で何度か頷いて見せてくれた。それに、大勢の人垣越しに見えたグリフィンドールのテーブルでは、フレッドとジョージが指笛を吹いていて、ハリーとロン、ハーマイオニーがぴょんぴょん飛んで大喜びしてくれている。ハッフルパフのテーブルでもセドリックが笑顔で拍手をくれていた。

 その夜は、この1年の中で1番素晴らしい夜だった。